「やはり、“単なる引かれ者の小唄”に過ぎないのでしょうか。とはいえ、株式会社にとっての株主総会にあたる総代会の意向をまったく無視する形で勝手に事業譲渡が強行されることについては、やはり釈然としないものがある」
今年1月に経営破たんに追い込まれた相互信用金庫(本店・大阪市)の総代がこう言ってみせる。
去る3月14日、相互信金の臨時総代会が開かれたのだが、この総代会において何と同信金の“事業譲渡案”が否決されてしまったのである。
相互信金の営業エリアが大阪地区に限定されているためか、このニュースはまったくと言っていいほど東京地区では報道されていない。しかし金融庁を含む関係各所に大きな衝撃を与えたのである。
「経営破たんに追い込まれた金融機関の中で、その事業譲渡に関しては旧経営陣が基本合意したにもかかわらず、総代会などで否決されてしまったケースは初めてなのです。金融庁や信金業界サイドではまさか否決されるとは思っていませんでしたから、相当なショックを受けたのです」(金融庁関係者)
問題の総代会では、以下に示す4項目からなる議案に関して議決が取られた。
(1)相互信金の解散、大阪信金(本店・大阪市)への事業譲渡(2)大阪信金との事業譲渡契約書の承認(3)役員定数の変更(4)精算法人の設立。
前述の総代会ではこのうち、1号議案、2号議案が否決されてしまったのである。
「総代会では、150人の総代のうち各議案に賛成したのは委任状も含めて82人にすぎなかったのです。金融整理管財人とその報告を受けていた金融庁サイドでは、事前の調査で議案可決に必要な3分の2の賛成が得られると想定していたのです。ところがこの“読み”が完全にハズれてしまったために大混乱に陥ってしまった、と言っていいでしょう」(金融庁関係者)
もっとも預金保険法の規定では、債務超過状態に陥った金融機関の場合、仮に総代会で事業譲渡案などが否決されたとしても裁判所の許可が得られれば、その“許可”を総代会の議決と準じたものとみなす、とあることから金融機関の解散や事業譲渡はとりあえず可能とされている。
「とはいえ、議案の反対に回った総代が裁判所に対して抗告した場合、解散や事業譲渡などについては一旦は執行停止されることになってしまうのです。それだけに事態は全く予断を許さない状態にある、と言えるでしょう」(金融庁関係者)
前述の総代が言う。
「金融整理管財人は、反対に回った総代に対して説得工作に入っているようですが、おそらく“抗告”に踏み切ることになるでしょう」
それではなぜ、相互信金の総代はこうまで抵抗するのだろうか。
「一言で言ってしまえば、出資金が全額パーになってしまったからです。大阪地区では昨年10月に大阪第一信金が経営破たんに追い込まれたのですが、この時は出資金が全額保護されているのです。というよりも、これまで信用金庫が経営破たんした場合には、その出資金についてはすべてのケースで全額が保護されてきたのです。ところが相互信金だけにはそれが当てはまらない、と言うのです。おかしいと思いませんか」(前述の総代)
金融庁および信金業界は、早急にこの“疑問”に答えるべきだろう。
“公平・公正”を欠いた破たん処理は、預金者および利用者の間にいたずらに不信を増幅させることになりかねない、と言えるだろう。