アンダーセングループと提携する国内監査法人大手の朝日監査法人が、KPMGと顧客の海外子会社監査や米証券取引委員会(SEC)への報告業務で提携する道が開けた。
このため、朝日は、3月決算顧客の会計監査に絡んで「期限内に監査を終了できないのではないか」と、一部関係者の間で懸念されていたが、このいわゆる“3月危機説”を一応回避する見込みとなった。
アンダーセンの監査機能が麻痺
朝日は、3290社の会計監査顧客を持つ。顧客の海外子会社の監査などについては、アンダーセンに依頼する形で行っていた。だが、エンロン問題を機に米アンダーセンの監査機能は事実上、麻痺した状態にある。
監査が期限内に終了できない場合には、有価証券報告書に添付される監査意見が「監査意見差し控え」という、顧客企業にとって重大な問題が発生する可能性がある。
こうしたことから、NTTドコモなどニューヨーク証券取引所に上場する顧客や、帝人など米国子会社を持つ顧客の2002年3月末の監査が、有価証券報告書の提出期限である6月末までに終了するかが危ぶまれていた。
朝日がKPMGとの提携を急ぐ背景には、朝日はKPMGに顧客の海外監査を委託することで、こうした問題を回避しようというわけだ。
アンダーセンの事態を重く見たSECは今月始め、資本市場の混乱を避けるため、アンダーセンの監査を受けられなくなった場合には、監査未了の年次報告書をSECに提出させ、別の会計事務所の監査報告書を、その後60日以内に提出できるという異例の措置を取った。
会計監査人の独立性問題が浮上
だが、朝日は、KPMGとの海外監査での提携を取り付けたからといって、3月末監査の問題が全て解決したわけではない。ここで浮上してきたのが会計監査人の「独立性」の問題だ。独立した会計監査を行うには監査人が顧客との利害関係があってはならないのが鉄則だからだ。
通常、会計事務所はそのパートナー(共同出資者)全員に対し、顧客株式の所有などで利害関係がないことを随時、厳しくチェックしている。また、監査顧客への経営コンサルティング業務に関しての「独立性」を問う調査も行っている。
KPMGは世界155カ国で10万人の従業員を抱えている。このうちパートナーの7000人弱は、朝日の顧客と利害関係を持ってはならないし、朝日のパートナー342人もKPMGの顧客と利害関係を持ってはならない。
アンダーセンは、エンロンとの監査契約と経営コンサルティング契約を同時に行い、多額の報酬を受けていたことを問題視されていただけに、朝日がKPMGと提携関係を結ぶためには、監査顧客とコンサルティング顧客との間での利害関係を排除することは最重要課題の一つに違いない。
朝日は今3月期監査を無事終了させるため、朝日とKPMG、そしてそれぞれの顧客との間での利害関係の調整が急務となっている。