企業の決算に大きな影響を与える減損会計の導入が迫る中、「土地再評価法」を適用する企業が続出!一体何がどう変わるのか?今後注目すべき点とは?
「土地再評価法」を知っていますか。最近新聞にも時々取り上げられていますので聞いたことがある方も多いと思いますが、一見難しそうですね。最近は「減損会計」との絡みで記事になっていることが多く見られます。
まず、減損会計について簡単に説明しましょう。減損会計とは、企業の決算処理において土地や建物、機械などの固定資産の時価が帳簿価格に比べて大幅に下落した時に、損失処理を義務付ける会計制度をいいます。今までは、土地については取得した時の価額で計上し続けていました。また、建物や機械については、取得時以降、毎年一定の計算に基づく減価償却費を計上しているのみで、特に時価への評価替えは行っていませんでした。通常、日本の多くの大企業においては、土地や機械などを多く保有しているため総資産に占める固定資産の割合はかなり大きくなります。よって、固定資産の評価損計上を求める減損会計は企業の決算にかなりのインパクトを与えます。この減損会計がいつ導入されるかについて、現時点で確定はしていませんが、早ければ2004年3月期から導入される見通しです。
固定資産の中でも、まずポイントになるのが土地でしょう。何年も下落しつづけている土地ですので、含み損を抱えている企業が多くあることは容易に想像できます。また、企業にとっても土地の時価については路線価や公示地価などから比較的容易に時価水準を試算できるため、現在どのくらいの含み損があり、減損会計が適用された場合のインパクトがどのくらいになるかを計算していることでしょう。
そこで、近い将来の減損会計を睨み、土地再評価法を適用する企業が続出しています。土地再評価法とは、事業用の土地について、含み益があるものと含み損があるものを全て時価で再評価する制度です。土地再評価法を適用した場合、損益計算書を経ず、直接貸借対照表(資本の部の「土地再評価差額金」勘定)で処理できることとされており、この点が当制度の利用を促している面もあります。すなわち、大きな含み損がある土地がある企業においては、いずれ減損会計が導入された場合に、多額の損失計上が必要になる一方、今、土地再評価法を適用すれば、損失を計上しないで良くなるのです。また、もう一つ重要なポイントとして、含み損を含み益と相殺できる点があげられます。減損会計では含み益は時価評価できず、含み損のみ損失計上することになりますが、土地再評価法は両者を相殺できるのです。別の言い方をすると、土地再評価法を適用すれば、貸借対照表において土地の含み益を実現できるのです。しかも、この2002年3月までの時限的な制度ですので、ここへきて駆け込みで利用することを決定する企業が多く、利用企業は累計で200社を超えているようです。
このように一見有利に見える今回の土地再評価法ですが、注意すべき点もあります。損益計算書を経ないとしても、企業の自己資本に影響を与えることには変わりないのです。すなわち、建設や不動産業界など、過去のリストラの過程で含み益のある土地などを既に売却している企業にとっては、含み損のある土地しか残っていません。これらの企業にとっては、いくら土地再評価法を適用しても、大きな自己資本の減少を招き、場合によっては債務超過にもなりかねないのです。
また、土地については上記のとおり土地再評価法の適用によって、当面の含み損処理を回避したとしても、その他の固定資産、例えば建物や機械などについては対応できていません。特に工場建物や機械などを多く保有する製造業については含み損が多額になるケースも予想されます。
以上より、減損会計は日本の多くの企業に影響を与えることが分かります。土地に含み損を抱えている建設、不動産業界はもちろん、鉄鋼業界や半導体業界など過大設備を抱えているといわれている業界についても注意が必要でしょう。今後これらの業界へ投資する際には、減損会計の適用時期に注目するとともに、投資先が土地再評価法を適用しているかどうか、遊休設備はないかなどについてチェックする必要がありそうです。
小石川 宏
提供:株式会社FP総研