廃貨となって国際金融市場から退場し、鳴りをひそめていた金が息を吹き返したかにみえる。わが国でも金の延べ棒を買う客が後を絶たず、その金額も半端でないと聞く。有事の金と呼ばれるごとく、政情不安や通貨危機に見舞われると金への選好が高まる。
海外では同時テロ後の騒然たる国際政治情勢が、またわが国ではペイオフ対策(自己防衛)が主たる動機となっている。日本の場合は、たんす預金の変形とみることもできる。ただ投資家の中には、今後インフレの到来必至とみて、それ自体固有の価値を有する金を保有し、インフレ・ヘッジに役立てるとの意図もあろう。また長引くゼロ金利が、利息を生まない金保有への抵抗感を和らげているのも事実だ。
要するにお上は信頼できないとの不信感が金ブームの背後にあることは重要な視点である。金取引業者が商機到来ととらえ張りきるのはよいが、それに悪乗りして、対外準備に占める金の比率の低さをあらためて問題としたり、さらには金本位制復活論を唱えたりするのは勇み足というほかない。
なお金保有には価格変動リスクが伴うことをきっちり押さえておく必要がある。国内の金相場は、海外市場の相場および円の為替相場という二つの変数で決まる写真相場と言ってよい。国内要因もゼロではないが、要はあなた任せの要因で上下動するという基本認識を持つことだ。あとは自己責任で処理すればよい。
政府としても、金ブームを人ごとのごとく傍観するのでなく、その背後にある国民の不信感を正しくとらえ、金融システムへのゆるぎなき信頼感を確立することが肝要だ。また1000万円を超える預金は銀行等破たんの際に戻って来なくなるかのごとき謬(びゅう)論は人心を惑わすもの、反省を求めたい。 (幸兵衛)