「金融危機は起こさない」との掛け声のもと、過重債務企業の根本的な再編・淘汰が来年度に先送りされた。株式市場では空売り規制強化とともに、公的資金がふんだんに投入された結果、株価は値を保っている。ただ、期越え後も決算発表や株主総会など高いハードルはまだ続く。中でも銀行の株主総会は混乱が不可避との見方が強まっている。ダイエー<8263>の再建策の発表以降、「投資家の利益を著しく損なう横暴な行為が続出、ひと言発言しないわけにはいかない」(欧州系運用会社)と構える機関投資家が増えているためだ。
●債権放棄は“背任行為”
「コーポレートガバナンス(企業統治)の観点からみて、ダイエーの再建スキームは資本主義の原理を無視したもので到底承服できない」―。ある外資系投資信託の日本法人と、彼らに資金を託している海外年金との間で今年1月下旬、こんなやりとりが交わされた。むろん、これは海外年金からのクレームである。
クレームの主旨はこうだ。邦銀に投資したつもりが、「ダイエーのトップが経営責任を追及されるわけでもなく、安易な債権放棄とデットエクイティ・スワップが実施され、銀行に投資した資金が無駄ガネになった」というのだ。ダイエーの再建スキーム以降も、ゼネコンを中心に債権放棄が相次ぎ、「海外年金など大口顧客のイライラは極限状態に達している」(先の欧州系)。金融庁と銀行が描いたシナリオへの風当たりは、予想外に強い。
●株主代表訴訟も視野に
このため、「MACの村上代表のように、“物言う株主”が今年の株主総会では続出するのではないか」(米系投信)という。元通産省官僚で投資会社M&Aコンサルティングを主宰する村上世彰氏。同氏はかつて昭栄<3003>に株式公開買い付け(TOB)を仕掛けたことで注目を集め、現在は東京スタイル<8112>に対し、自社株消却や増配を行うよう提案している。また、同社に社外取締役の選任を迫るなど、物言う株主
として注目を集めている。
なかでも同氏の動きに注目しているのが、先の年金筋のような海外の機関投資家だ。
日本の株主総会では、古くから上位株主が声を上げることが事実上タブー視されてきたが、海外投資家の間に「村上氏の行動を機に、同じような発言を行うべき、とのムードが高まりつつある」(同)というのだ。まして資本主義のルールを踏み外したとの批判が根強い「債権放棄」が乱発された直後である。市場では「米国の大手公務員退職金年金が株主代表訴訟も視野に“声を上げる”ことを検討している」(銀行系
証券)との観測もある。
「経営トップの海外ロードショー(投資家向け説明会)を通じて、海外投資家の不満は十分に解消可能だ」(大手銀行筋)というのが、現状の邦銀のスタンス。ただ、今回の“先送り”に対して積もりにつもった不満は、簡単に払しょくできるものではなさそうだ。
○URL
・「金融再生最前線」〜次は6月か、二流トリックで隠された3月危機
http://www.paxnet.co.jp/news/datacenter/200203/22/20020322091520_44.shtml
[相場英雄 2002/03/26 10:23]