●秘書給与詐取疑惑拡大で社民党崩壊の危機も
政局の焦点は、これまで鈴木宗男議員の疑惑を証人喚問などで舌ぽう鋭く追及してきた社民党の辻元清美政審会長が秘書給与を詐取した疑いが濃厚となり、一転して与党側の追及を受けるという攻守所を代えた展開となった。辻元氏は既に24日のテレビ番組などで、元秘書には月5万円だけを払い、給与の大部分を事務所経費などに流用したことを認めており、同氏の議員辞職は不可避の情勢となった。同氏はまた、政策秘書の名義を借りた元秘書について「先輩議員から紹介された」と、社民党が組織ぐるみで秘書給与詐取を行ったことも示唆している。関係者によると、同党の土井たか子党首もかつて同様の行為を行っていたとの情報もあり、もしこれが事実だとすれば、同党は一議員の辞職にとどまらず、党崩壊の危機に直面する可能性すらある。
●発言通りなら辻元氏は逮捕の可能性も
辻元氏の発言通りだとすると、勤務実態がほとんどない政策秘書の給与を国から年間約1000万円だまし取っていたことになり、詐欺罪が成立する可能性が高い。また元秘書が給与の大部分を辻元事務所に還元する際、政治献金の手続きが取られておらず、政治資金規正法違反の疑いもある。さらに2カ所から給与を受け取っていた元秘書は確定申告が必要だが、これもなされておらず、所得税法違反にあたる。これらのことを考え合わせると、検察が国会議員として極めて悪質な行為とみなす可能性もあり、かつての民主党の山本譲司元議員のケースと同様、議員辞職にとどまらず、逮捕〜起訴〜実刑判決となる恐れが出て来た。
それにしても辻元氏が証人喚問で鈴木氏に対し、大声で「嘘つき」「疑惑の総合商社」呼ばわりをしたのはわずか2週間前。その当の本人が疑惑を全面否定した記者会見の内容がほぼすべてにわたって覆った事実は呆れるほかなく、単に道義的責任を果たせば済むというものではないであろう。仮に同氏が議員辞職を拒み続ければ、社民党だけでなく野党全体が大きな打撃を受けることになろう。
●6月の国会閉会直後に内閣改造か
小泉純一郎首相がソウルでの同行記者団との懇談で述べた「政権の求心力は今が一番強い」と、早期の内閣改造を否定した発言の解釈をめぐって諸説入り乱れている。首相の言葉をそのまま受け取る向きはほとんどなく、政府首脳ですら「(首相に求心力が)あると言えばある」と述べたほど。中には「求心力がないからああいう強がりの発言になる」との見方もある。実際、首相の求心力が最も高かった昨年6〜7月の参院選の頃に比べ、演説の際の勢いもなくなり、「カリスマ性、神通力がなくなった」(公明党中堅)というのが衆目の一致するところ。言い換えれば、内閣支持率も下がり、「普通の政権」になったということもできる。
ただ、首相にとって当面の敵だった橋本派も鈴木氏の疑惑と離党で傷つき、さらに同氏の後見人だった野中広務元幹事長も傷ついた。また「ポスト小泉」の一番手だった加藤紘一元幹事長までが離党し、現在、“奇妙な安定感”が支配しているのも事実だ。しかし一皮めくると、自民党内では小泉首相の威令が全くと言っていいほど届かなくなり、与党内でも公明党が“小泉離れ”を強めている。このため、政権者の一番の権力の源である解散権は事実上封じられており、あとは内閣改造などの人事権行使以外に権力を振るう場面しか残されていない。このため、6月19日の今国会閉幕直後に改造が行われる可能性が高い。首相がソウル懇談で改造について「当面はない」と述べたのは、2002年予算成立直後の4月はないと言ったに過ぎないと解釈するのが妥当だろう。
●注目の横浜市長選は非自民候補が優勢
その小泉政権の今後を占う重要なファクターは依然、「景気の動向」が上げられるが、差し当たってはこの1カ月前後に行われる4選挙の勝敗が政権の帰すうに直接響きそうだ。与野党が注目しているのは、横浜市長選(3月31日投票)、京都府知事選(4月7日投票)、衆院和歌山2区補選(4月28日投票)、参院新潟補選(同)。このうち参院新潟補選は23日、自民党公認候補が突然、出馬断念を表明し、同党の候補者選びは振り出しに戻った。これからどんな候補を持って来ても出遅れは否めず、言わば“不戦敗”となる事態に山崎拓幹事長ら党幹部は大きなショックを受けている。
また4選挙のうち横浜市長選が最も注目されているが、ここでも自民党推薦候補が「多選高齢」批判を受け、衆院議員を辞め出馬した若い無所属候補にリードされている。しかも首相は出馬の挨拶に訪れた同候補に激励の言葉を掛けるなど個人的にも親しい。これに対し自民県連が猛反発しているが、首相は選挙戦中も自民推薦候補の応援にも行かない意向。しかし神奈川県は首相の地元でもあり、もし無所属候補が当選すれば、首相に対する批判は相当大きなものになり、政権不安定化の要因の一つとなる。
●外務省はなぜ国民に嫌われるか〜「真に日本国民を守る決意」
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)による日本人拉致問題について北朝鮮側が行方不明者の調査再開を発表したことは、過去の例から北側の声明をそのまま信用することはできないものの、一条の光が射す思いがする。これは先に「よど号」ハイジャック犯の元妻が法廷での証言で、元神戸市外大生、有本恵子さんを拉致したことを明らかにしたことが直接のきっかけ。さらに米国の北朝鮮に対する強硬姿勢や日韓首脳会談での小泉首相の拉致事件解決への決意も大きく作用したことは間違いないだろう。少なくとも歴代アジア局長の何人もが述べてきた「(拉致された)9人や10人のために日朝国交正常化交渉に影響が出たら困る」との外務省の態度は何の役にも立っていない。それどころか、そうした日本人の生命財産を守ろうともせず、「日本人拉致事件はすぐれて主権侵害事案」との認識も薄い同省の姿勢は事件解決に有害とさえ言ってよい。
なぜ外務省は国民に嫌われるのか。昨年初めからの数々の不祥事が大きく影響していることは事実だが、不祥事発覚以前から指摘されている事柄に、同省が邦人保護に真剣に取り組んでいないとの問題がある。外国で事件に遭遇した邦人に対する在外公館の冷淡な態度は、最近改善されているとはいえ、かねてから繰り返し指摘されているところだ。しかしもっと重大な問題は、「究極の邦人保護問題」である外国公権力による日本人拉致事件の解決に全力で取り組んでこなかったことにある。この点を反省しない限り、いくら不祥事再発防止を誓ったところで国民は決して外務省を信用しないだろう。問われているのは上辺だけの出直しではなく、外務省員一人ひとりが「真に日本国民を守る決意があるのか」「本当の国益を守ることはできるのか」という根本問題にある。
(政治アナリスト 北 光一)