弁護士余録
高井 伸夫
詳しい点検や検証 本質の理解求める
弁護士はとかくきれい事。建前のみを語りがちな依頼者から本音を引き出し、問題の本質を把握するために、さまざまな工夫をする。これは企業活動にとっても参考になると思うので、私の取り組み方の一端を紹介したい。
相談案件・訴訟に取り組むにあたり、私は依頼者にまず@経過書を作成してもらう。個条書きで務めて叙情的にならないように求める。次にA相手方、当方それぞれにとって不利益な事実の一覧表を作成してもらう。
事を起こす段にはB大義名分書(必要性を訴える理由書)の作成をお願いし、C相手方に提示する条件をまとめるよう求める。
さらにD想定問答E想定状況の作成も依頼する。想定状況とは予測されるリスクの一覧で、それを列挙してもらう。また、事を前進させるためにはFスケジューリングの設定もお願いする。
@−Fは務めてデジタルに作成し、かつ裏付け資料の点検を怠らないよう留意してもらう。
こうしたち密な点検・検証作業を通じて初めて問題の所在をより正しく認識し、危険をも予知できる。一連の作業は、問題を解決するためには強固な遺志力こそが必要不可欠であることを依頼者に悟ってもらう過程でもある。
人事労務問題を専門とする私が新しい命題に挑戦するのは、さまざまな改革を実現させたいからだ。それには企業の構成員たる役員・社員はもとより、社会、裁判所まで説得するぐらいの気構えで望むことが極めて重要だ。このため依頼者との共同作業の中から、説得に向けてのキーワードを見いだすのが私の大きな仕事なのだ。
「彼を知り己を知れば、百戦して殆(あや)うからず」――。月並みであるが、私のノウハウの基本はこの一語に尽きている。