外国銀行が日銀当座預金残高の増加を支える構図が際立ってきた。外銀は、信用が低下する邦銀からマイナス金利で円を手に入れ、それを利子ゼロの当座預金に預けて利ザヤを抜いているのだ。日銀が量的緩和策として進める当座預金の高水準維持の裏で、こうした奇妙な動きが広がっている。
▼…日銀の統計によると、在日外国銀行の日銀預け金残高(日銀当座預金残高にほぼ相当)は昨年12月末で約4兆円で、9月末に比べ倍増した。一方、都市銀行など国内銀行の残高はこの期間に1兆円減り、7兆6000億円になった。当座預金残高は全体では約3兆円増えて15兆円台になっており、外銀の貢献が大きかったことになる。
外銀の残高は今年に入っても増加、「1月末に6兆円程度になったとみられる」(白石誠司・大和証券SMBC債券部チーフ・マーケット・エコノミスト)。
背景には、外銀が持つドルと邦銀が持つ円とを一定期間交換する為替スワップ取引がある。この取引で外銀は円をマイナス金利で調達、その円を利子ゼロの当座預金に預けても利益が出るようになっているのだ。
▼…マイナス金利が発生する仕組みはこうだ。
直物相場を1ドル=130円として、外銀の1万ドルと日系金融機関の130万円を1年間交換するスワップ取引を例にとる。ドル金利年3%、円金利ゼロ%とすると、外銀は金利3%のドルをゼロ%の円に換えるのだから、普通はその差3%分(300ドル=3万9000円)を穴埋めすればよく、1年後に邦銀に返す円を3万9000円分差し引けば、市場実勢通りゼロ%の金利で円を調達できる。
ところが、信用度の高い外銀は、ドルの手当てに苦しむ邦銀より優位に立っており、邦銀に返す円をもっと少なくする有利な契約を交わせる。この結果、円の金利はゼロを下回りマイナスになる。
こうした動きは昨年9月の米同時テロ直後、国内機関投資家の外債投資の拡大に伴って急増。邦銀は不良債権問題で信用力に不安を抱えるだけに、その後も続いてきた。2月以降、一部外銀には日本での資産運用の比重を抑えるために当座預金を減らす動きもあったが、全体ではなお高水準を保っているようだ。
▼…もともと、量的緩和策は、金利ゼロの当座預金の残高が膨れあがるほど日銀がお金を供給し、その資金を利息を生む債券や株式、企業貸し出しに流すことをねらっていた。当座預金を使って利益を稼ごうという外銀の動きは日銀の想定外で、このままでは当座預金に資金が固定したまま動かない可能性がある。
量的緩和策の導入から1年たち、当座預金残高はすでに開始当初の3倍以上になった。にもかかわらずそれが景気の下支え効果を生まない理由をめぐり様々な議論が交わされている。外銀の動きは空回りする量的緩和策を象徴している。(R)