「会計原則には、保有株式の評価については原則として期末日の終値を基準とする、とある。期末1カ月の平均時価でもいい、とはどこにも書いていない。ここへ来て保有株式の評価方法に関して“平均時価方式”採用する大手銀行が続出しているが、会計原則上、いささか問題があるのではないか…」
日銀幹部がこう指摘してみせる。
このコメントにもあるように、大手銀行が相次いで保有株式の評価方法の変更に着手している。
「会計原則上の問題点もさることながら、今になって評価方法を変更するということは、さながら“後出しジャンケン”のようなヤリ口、とも言えるのです」(大手銀行幹部)
なぜ、そのことが“後出しジャンケン”となるのか、以下順を追って説明していくことにしよう。
そもそも前年度(2001年3月期)段階で、期末1カ月−−つまり3月の平均時価方式(月中平均方式)を採用していた大手銀行は、大手12行のうち三井住友銀行とあさひ銀行の2行だけだったのである。
ところが今期(2002年3月期)、この“月中平均方式”を採用する大手銀行は一挙に増えて、12行中9行にまで増加しているのが実情だ。
この結果、“終値方式”を現在に至るも採用している大手銀行は、東京三菱、三菱信託銀行、大和銀行の3行だけになってしまったのである。
なぜ、ここへ来て保有株式の評価方法を変更する大手銀行が相次いでいるのだろうか。
「最大の理由は、今期決算から時価会計制度が導入されたからです。期初(4月1日)の株価を期末(3月末)の株価が下回った場合、その保有株式に“評価損”が発生することになる。そして、発生した“評価損”については、その6割を自己資本の“剰余金”の項目から差し引く、という会計上のルールが新たに設けられたのです」(大手都銀役員)
そして、この“剰余金”は、そもそもは株式配当や不良債権処理に充てられる資金項目だ。
「その“剰余金”も、相次ぐ不良債権処理によって大きく減少していたのが実情で、今期の株価しだいでは、配当原資の枯渇という事態も想定されたのです」(前述の大手都銀幹部)
しかも、東京三菱銀行と三菱信託銀行を除く大手銀行10行は、公的資金を導入する形で資本増強を図っていたから、仮に“剰余金”が枯渇して配当金見送りということにでもなれば、にわかに“準国有化”という事態も現実味を帯びてきてしまうのである。
「実は、公的資金を導入している大手銀行にとって、剰余金枯渇という事態が、最も現実味のある危機のシナリオだったのです」(大手都銀経営中枢幹部)
金融庁サイドも当然のことながらこうした事態を把握していたから、カラ売り規制を中心とする株価対策に遮二無二乗り出していったのである。
「こうした金融庁指導の株価対策が功を奏する形で、株価は2月下旬から3月上旬にかけて急回復していくのです。そして、こうした状況を受ける形で、大部分の大手銀行は“月中平均方式”に切り替えたわけですから、もう期末の株価がどうであれ、国有化危機からはほぼ脱した、といえるでしょう。もう今となってみれば“左ウチワ”ですよ」(大手都銀幹部)
まさに“後出しジャンケン”以外の何ものでもない、といえるだろう。
今期中に“月中平均方式”に切り替えた大手銀行は以下の通りだ。
第一勧業、富士、日本興業、UFJ、UFJ信託、住友信託、中央三井信託。
2002/3/22