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●ペイオフ前の安全宣言〜力づくで消し去った危機
「ペイオフ解禁に向けて体制は整った」―柳沢金融担当相は先週3月15日の記者会見で胸を張った。ペイオフの解禁を前に、銀行については整理・淘汰が進むとともに再編や増資などによって当面の健全性が確保されたと宣言したのだ。柳沢金融担当相にとっては、晴れやかな気分だったに違いない。竹中経済財政担当相や速水日銀総裁らを敵に回し、1人金融危機の回避に腐心して公的資金の再注入を否定し続けてきただけに、自らの言葉が真実であった事を見せつけようとする思いが強く感じられた。
柳沢金融担当相は信念の人と言われる。反面、それが視野の狭さにもつながると指摘する人もいる。もしかすると視野の狭さを、持ち前の勤勉さと負けん気でカバーして乗りきってきたのかもしれない。しかし、この金融危機の回避は仕組まれ、見え見えのトリックで消し去られたかのように見えるだけである。やっている事は、狂牛病に対する検査体制が整わない内に形だけの安全宣言を出した農林水産省と同じだ。
こうした宣言は言葉だけが空しく響く。3月17日付の朝日新聞朝刊が、すでにこの「金融再生最前線」で紹介した内容をあたかもなぞるように、ここ数カ月の危機回避の顛末を詳細に紹介している、それも1面トップで、だ。金融を深く知る玄人でなくても、こうした記事を読めば、国がダイエー<8263>やゼネコンなどの企業再建に深く関与し、金融機関の支援も、まさに金融庁の書いたシナリオ通りに展開してきたことを確信するだろう。国が国民の目を欺くために、トリックとも呼べない、いわば力づくで、危機そのものを消し去った。不良債権、構造改革・・・いま解決すべき問題をすべて先送りにしてしまった。
●選挙区地元の地銀破綻を最後に〜自らの政治配慮を優先
今月8日、静岡市に本店がある「中部銀行」が破綻した。それも増資が実現できなかったという屈辱的な破綻だ。この静岡県は、柳沢金融担当相の選挙区がある地元。以前から柳沢金融担当相は、1県2行、つまり1つの県に地銀クラスは2行あれば良いと主張してきた。この静岡県は地銀クラス行が林立してきた歴史がある。
かつての記者会見で、この静岡だけは例外扱いとも取れる発言までしている。いくらお膝元とは言え、経営不振行の存続を預金者と時代は許さなかった。中部銀行の増資が難航している事を知るや、預金は静かに、そして確実に抜けていったのである。できれば地元の混乱は避けたいが、中部銀行の破綻は避けられない。柳沢金融担当相はペイオフ前のフィナーレに、その破綻を持ってきた。“地元へも顔が立つ”といったただそれだけの理由で。
それは透明なはずの金融行政を歪め、実現性の低い増資計画で死期を引き延ばし、自らの政治的な配慮を優先したとすれば、国民を愚弄する所業と言わなければならないだろう。中部銀行の死期は、当局の検査でももっと早くやってくる事が確実視されていたのだから。
●「今後も処理される銀行は出てくる」〜ブリッジバンクの大きな意味
ペイオフを前に先の中部銀行、それに石川銀行の業務を引き継ぐ「ブリッジバンク」が設立された。はっきり言っておくがこれは中部と石川の両銀行のためだけに作られたものではない。金融庁の幹部は、今後も処理される銀行は確実に出てくると声を潜める。
その際、金融庁は金曜日に破綻処理した銀行を月曜日には受け皿金融機関の看板の下で営業を再開させる「金-月処理」を目指している。しかし、すべてがスムーズに行くはずはなく、受け皿が見つからない可能性も出てくる。そこにこのブリッジバンクが活躍するのだ。つまりこのブリッジバンクは、預金者に一種の安全性を訴えるだけでなく、今後も破綻が続く可能性が高い事を予言しているとも言えるのだ。
●トリック有効期間は「6月」まで〜内閣改造とともに再燃する金融危機
では、いつまでこのトリックは危機を消し去ることができるのか。その答えは「6月まで」だ。内閣改造の可能性が高く、森金融庁長官の任期を迎える6月まで危機を消し去る事ができればいいのだ。そうする事によって金融庁の威光は十二分に保てるのだから。鈴木宗男疑惑などは、タイムリーな絶好の隠れ蓑ともいうべき存在であろう。
6月になれば何が起こるのか。大手銀行の首脳は「中間決算を前に、公的資金の再注入論議が再燃するのは確実だし、大手生保やノンバンク、それに商社など大き過ぎて先送りされてきた過剰債務企業の経営危機が表面化する可能性が高い」と話す。まさに危機が演出されるのだ。その時・・・危機を未然に防げず傷口だけを広げていった柳沢金融担当相も森金融庁長官も、その場所には居ない。
（東山 恵）
題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。