このところの株価回復で大手銀行がホッと胸をなでおろしている。株式の含み損が縮小したおかげで、国が保有する優先株に対し辛うじて配当できるメドが立ち、国に議決権が発生し実質的な国有化銀行に転落する危機を回避できる見通しになったためだ。もっとも、政府が空売り規制や公的資金によるPKO(株価維持操作)で、なりふりかまわず株価を押し上げたおかげ。不良債権処理も結局、得意の先送りに終わり、国有化危機の構図は何も変わっていないのが実情だ。
三菱東京フィナンシャルを除く大手銀は、公的資金の注入を受ける際、優先株を発行し、これを国に買い取ってもらった。優先株は株主総会での議決権がない代わりに、配当などで優遇されるが、その配当がなくなると議決権が発生する仕組みになっている。
配当ができるかどうかは、株価に密接に関係している。昨年9月中間期の平均株価は9774円で、大手銀全体で3兆円超もの含み損が発生。今年3月期決算から含み損の6割を配当原資である余剰金から差し引かなければならない時価会計制度が導入されるため、余剰金が底を付き、配当不能に陥ると懸念されていたのだ。
平均株価は2月6日には9420円まで急落。このままでは大手銀が相次いで国有化されるのは必至で、それが“3月危機”の一因にもなった。
このため、政府はデフレ対策の名目で、空売り規制を発動したほか、公的資金で買い支えるなど、なりふりかまわぬ株価てこ入れ政策を敢行。そのかいあって、株価は1万1000円台まで回復。大手銀の含み損は9月末の3兆円から半減したとみられている。
株式市場関係者は「政府は3月期末の株価1万2000円を目標にしていたようだ。予想以上に早く効果が出てしまい、最近は少し息切れ気味だが、政府のシナリオ通りになったのは間違いない」と指摘する。
さらに、政府と大手銀は3月危機の回避を大義名分として最優先の不良債権処理も結局、先送りした。金融庁による特別検査で、過剰債務を抱える大口問題企業の抜本処理が行われるといわれてきたが、法的整理されたのは青木建設と佐藤工業の2社だけ。後はダイエーに代表されるように、債権放棄などによって延命された。
元大蔵省財務官の榊原英資慶大教授が「ダイエーを破たんさせ、大手銀に公的資金を再注入すべきだった」と述べるなど、先送りに対する批判は根強い。
「人為的に上げられた株価の化けの皮がはがれるのは時間の問題。不良債権処理が先送りされた分、危機もより厳しいものになる可能性がある」(高木勝明治大教授)
株価次第で、また同じ危機の構図が浮上してくるのは確実なのだ。