東京三菱銀行での金融債発行はついに今月で最後に。安全・有利というキャッチフレーズで個人に人気のこの商品、4月からのペイオフ解禁や今後の金融業界の動向次第ではなくなる可能性も?
今月13日、東京三菱銀行において遂に最後の金融債(割引債の「ワリトー」、利付債の「リットー」、個人保護預り専用の「ハイジャンプ」)の売出発行が開始されました。
金融債とは特定の金融機関(日本興業銀行、新生銀行、あおぞら銀行、農林中央金庫、商工組合中央金庫、信金中央金庫)自身が発行する債券であり、通常、国債以外の債券は証券会社で販売されますが、この金融債については発行企業である金融機関の窓口において主に販売されています。
また、最近の低金利やペイオフ対策を受けて、新生銀行は振込手数料の無料サービス、あおぞら銀行は高い利回りの定期預金がそれぞれ注目されており、口座を新設された方も多いと思われます。これらの銀行は長期信用銀行として位置づけられ、単に預金だけを受入れることはできません。事実、それぞれの金融機関のホームページや説明用資料を御覧いただくと、預金のためにはこれらの銀行が発行する金融債を購入していることが条件になっています。
この金融債について少しみてみたいと思います。
■ 資金調達手段として非常に有利な社債券
通常、債券は募集期間が終了し払込みが行われた後に発行され、しかも発行企業には募集額に申込み額が満たない場合にはその債券は発行されないといったリスクがあります。
一方、金融債は売出期間中に顧客の申込みが行われた場合には即時に、また、個別的に債券が発行されることから、発行企業にとっては申込み額が少ない場合にも必ず債券が発行により資金調達できます。このほか、発行企業には証取法のディスクロージャー義務が免除されるうえ、発行手続きも簡素化されており低コストで資金調達できるようになっています。
確定利回りの金融商品である金融債は、迅速かつ簡素な発行手続き等から、長期融資や店舗設置制限の厳しい長期信用銀行においては貴重な資金調達源として、預金的な機能を果たしてきました(都市銀行等は1999年10月まで普通社債による資金調達が禁止されていた)。
■ 原則として金融債はペイオフの対象外
もちろん、金融債の名前から明らかなようにあくまでも特定の金融機関が発行する債券ですから、銀行が発行する普通社債と同様に原則としてペイオフの対象にはなりません。
しかし、上述のようにこれまで金融債が預金と同様の機能を果たし、預金者において預金と同様の商品性と認識されてきたことから、改正預金保険法により3月31日まではペイオフ対象となり、また、4月1日以降も、財形商品や個人向け保護預り専用商品(ワイドやワリコーアルファなど)に限定してペイオフの対象となっています。
インフレリスクを無視すれば、低格付けで高い利回りの個人向け保護預り専用の金融債については投資妙味があるといえるでしょう。
■ 金融債がなくなるかも?
今後、金融庁において金融債を含めた銀行の社債発行について見直しが行われる模様です。これまで特定の金融機関にのみ金融債といった有利な資金調達が認められることは不公平、資金調達の多様化といった観点から都市銀行にも金融債発行を拡大すべきなど、いろいろな意見もあります。
いずれにしても議論の動向によっては金融債にのみ資金調達を頼ってきた金融機関にとっては大きな影響があるといえます。
普通銀行とのM&AやIPOなど変化が出てくることが想定され、ペイオフ解禁後においても銀行業界の動向に注目が集まりそうです。
阿波一行
提供:株式会社FP総研