http://www.mri.co.jp/NEWS/2002/pr02031400.html
基本スタンス−金融政策の位置付け等
・ 当面の金融政策について考察するに際して、当方の基本スタンスを確認しておくと、第1に現在の日本経済の課題は、(1)危機的状況の回避、(2)金融システム健全化(不良債権処理と金融仲介機能回復)、(3)構造改革の3点である。第2に、これらの課題は金融政策のみで対処できるものではなく、政府と日銀の協調が不可欠だが、その協調において先導的役割を果たすのは政府であり、金融政策は側面支援的な役割と位置付けるべきである。
・ 金融政策を側面支援的役割に位置付ける理由は、(1)金融システム健全化や構造改革など上記の課題は、基本的に中央銀行が率先して責任を負うべき領域ではないこと、(2)中央銀行は政府に比べ機動的に政策を発動できるため、政府の側に一種の「モラル・ハザード」が生じる可能性があることである。実際、今回のデフレ対策をみても、政府が十分に政策にコミットする前に日銀が対応すると、それによって政府の危機感が薄まる恐れもあるように窺われる。そうなると政府の対応が先送りされてしまい、問題の根本的な解決が遠のきかねない。
政府に期待する役割
・ 政府に期待する役割としては、(1)金融システム対策(金融不安の抑制、不良債権処理促進、金融機能の回復など)、(2)金融市場対策(長期金利対策、株価対策等)、(3)有効需要創出策、(4)構造改革、などが挙げられる。
金融政策のあり方
・ これに対し、日銀に期待する役割を、冒頭の3つの課題に沿って考えると、まずはいずれに対してもデフレの阻止は重要である。デフレ阻止に向けて当面考えられる金融政策上の対応として、(1)オペや日銀貸出を通じた資金供給、(2)時間軸効果の一段の活用、などが挙げられる。
(オペの拡充)
・ オペに期待されるのは基本的にリバランス効果であるが、従来のオペでは今のところ目立った効果は表れていない。したがって、さらなるリバランス効果を期待して、オペ対象に以下のような金融資産を追加してはどうかと考える。
―― 国債:超長期債として30年物。もっとも、市場流通量が少ないため政府の国債発行計画の段階から検討する必要がある。
―― 地方債等の公共債:地域金融機関からの応札を期待し、特に地方債の買いオペの検討。もっとも、市場性の公募地方債の残高は限られているため、縁故債の扱いの検討が求められる。地方債がオペの対象になれば、地域金融機関の資金繰りに資すると期待される。また地方債の共同発行を進め、それを日銀がオペの玉とすることも考えられる。
―― 状況次第で外債:何らかの理由でファンダメンタルズを反映しない形で過度に為替が円高に振れるような場合には、外債の購入も考えられる。
(日銀貸出−特に33条貸出の活用)
・ 最近では、札割れの多発などオペによる資金供給に限界がみえ始めている。こうした中、日本経済の厳しい現状を踏まえ日銀貸出の活用を再検討してよい状況と思われる。
・ 日銀貸出のうち、資金供給手段としての活用が考えられるのは「33条貸出」である。多額の33条貸出を行うことにより、銀行のポートフォリオが変化し、リバランス効果が生じる可能性がある。33条貸出は、日銀が“通常業務”として行う貸出にあたり、90年代前半までは市場調節の主役であった。
(インフレ・ターゲティングに対するスタンス)
・ 「効果があるかもしれない、無いかもしれない、甚大な副作用があるかもしれない」というあやふやな状況で、インフレ・ターゲティングといった大きな枠組みを導入することは望ましくない。
・ しかし、インフレ・ターゲティングのコンセプトを完全に否定するわけではない。「CPI前年比がゼロパーセント以上になるまで緩和を続ける」としている日銀は、既にインフレ・ターゲティングに近い枠組みを導入している部分があり、「時間軸効果」は期待インフレ率に影響を及ぼし得る。したがって、この時間軸効果を強める方向が考えられる。具体的には、量的緩和を解除する条件となるCPI上昇率を引上げるという方策があり得る。
(緊急時の危機回避)
・ 2002年4月以降ペイオフが解禁される中、特に金融面の危機回避に向けての役割を日銀に求めたい。これに向けては、オペや日銀貸出を通じた潤沢な資金供給が大きく貢献すると考えられる。
(金融システム健全化の促進)
・ 金融システム健全化を促進するために、例えば、不良債権処理が進んだ先や貸出を伸ばした先には、オペや日銀貸出を通じて銀行に対してフェイバーを与える((1)マイナス金利での資金供給、(2)日銀当座預金への付利など)というインセンティブ付けが考えられる。
(危機発生後の対応)
・ いよいよ経済危機が発生しそうになる(ないし実際に発生する)となれば、新たな金融政策面での対応が求められてこよう。
・ 政府も対応をとることを前提に、一部信用リスクをとることも止むを得なくなる可能性がある。日銀が信用リスクを一部負担するオペということになると、社債や株式を用いたオペということになる。オペの進め方としては、まず高格付け社債の現先オペを行い、さらに経済情勢が厳しくなれば格付けの劣る社債や高格付け企業の株式を用いた現先オペを行う、といった順序が考えられる。