財務省は10年物国債の4月発行分から、月額1000億円の増額分を全額競争入札とする。シンジケート団の引き受けは2%下がり約38%になる。財務省は5月にも25%に下げる方針で、10年来、議論されつづけてきた「シ団廃止」も視野に入ってきた。財務省はようやく重い腰を上げようとしている。
「2003年中のシ団廃止もあり得る」
シ団比率の2%引き下げを市場は予想されていたことと冷静に受け取っている。むしろ、今の注目点は、あとどのぐらいの期間で、「完全入札制」に移行するか、のようだ。BNPパリバ証券のチーフストラテジスト島本幸治氏は「2003年度中にゼロにするということはあり得る」とみる。
島本氏は「シ団がバッファーになっていただけに(シ団が廃止されれば)マーケットが悪いときには、地合いがさらに悪化するととらえられる可能性もある」としているが、「もともと決まった額を、有無を言わせずに引き受けさせるという市場原理に反した制度」であるとして、廃止には異論はない。
また、ドイツ証券の森田長太郎シニアエコノミストは「完全入札制に持っていくと、米国のようにボラタイル(不安定)になるかもしれない」という。
だが、同氏は「日本市場は値動きが乏しく、流動性も低い」と日本の問題点を指摘したうえで、市場の効率性を引き上げる完全入札制によって、国債市場の流動性が高まることになれば、ボラタイルなことはさして問題ではない、と語る。
そのうえで、同氏は、市場の安定を確保するためプライマリー・ディーラーのような制度を導入するなどの環境整備をしたうえでの段階的廃止は、時間の問題とみている。
シ団引き受け発行額のわずか8%
発行年限の多様化が進み、国債の安定消化のためにシ団が引き受けている国債の額は8兆円程度で、発行額の8%程度に過ぎない。また、流通市場もシ団制度の導入当初に比べ飛躍的に拡大、シ団の存在意義は薄れた。
そのうえ固定的なシェアや、シ団手数料が、市場を歪めているという批判も強い。このため、シ団廃止については、この10年、議論され続けてきた。
シ団制度は、1965年に戦後初めて建設国債が発行される際に、国債の流通市場が未発達であったことから、大手銀行を中心として設けられた制度だ。その後、シ団引き受けの比率は89年に60%、90年に40%に引き下げられ現在に至っている。
65年に756の金融機関でスタートし、ピークの95年度初には2002社に増えたが、現在は約1500社に減少した。一方で、国債発行額も増加し1社あたりの引受額が増えた。主要銀行などは必要以上に引き受けざるを得なくなっている。
このため、外資系証券会社などには、必要な新発債を調達するのが難しいとの不満がある。このように、シ団の存在が市場の効率性を損なっており、将来的には廃止すべきという見方は多い。
「市場はガラス細工のようにもろい」
だが、日本の金融市場に残る規制や保護による「ゆがみ」がある限り、シ団制度は廃止すべきでない、という見方もある。
野村総研の富田俊基研究理事は「日本以外の国では、国債がもっとも安全な資産だ。しかし、日本ではペイオフ制度が完全に実施されるまでは、国債に向かうべき資金が預金に行ってしまう。このような状態では、シ団制度は廃止すべきでない」と語る。
ペイオフはこの4月に解禁されるが、それは一部で、流動性預金はさらに1年間解禁を延長される。
みずほ証券の高田創投資戦略部長は「国債の発行額が増えており、長期金利に上昇懸念のあるときに見直す必要があるのか」としてタイミングを問題にした。同氏は「市場はガラス細工のようにもろい」と懸念する。
WI取引やマーケット・メーカー
このため財務省では、シ団の見直しと同時に、シ団制度に代わって国債の安定消化を確保するための制度として米国などで行われているWI取引や英国のマーケット・メーカーや、フランスのSVT(国債プライマリー・ディーラー)制度などを参考にした環境整備を検討している。
WI取引とは、米国で取られている安定消化のための制度でのひとつ。入札日の1週間前に、発行日、発行額、表明利率、入札日が発表され、入札日までの間、まだ、発行されていない架空の債券を実際、取引できるものだ。
この間に、買い手を確保できるため、入札時に需要がなくてマーケットが崩れるような事態を防ぐことができるメリットがある。ただ、この制度の導入には日本の当局はやや及び腰で、まず、「WIは国債なのか、あるいは有価証券なのか」(金融庁)という問題から考えていく必要がある、としている。
また、イギリスで行われているマーケット・メーカー制度では、十数社の金融機関がマーケット・メーカー指名され、市場で国債の流動性を維持していくために、すべての国債の売買気配を提示したり、売買注文に応じ、入札に積極的に参加する義務を負わせている。
しかし、その一方で、入札に電話で参加できる、ストリップス債のストリップス化と再構成を行うことができるなどの「特権」が、マーケット・メーカーに指名された金融機関には与えられている。
憶測呼ぶ市場懇メンバーの選定基準
財務省理財局では10月以降、一定の国債落札実績をクリアした金融機関などから、国債市場懇談会のメンバーを決める方針だが、市場では、このメンバーが、日本版マーケット・メーカーになるのではないか、という見方が広がっている。
財務省はシ団の見直しの先に「廃止」がある、と市場関係者が見ていることに神経質になっている。だが、既にシ団引き受けの比率は、国債発行額の8%程度に過ぎず、もし、引受比率が25%に下げられれば、5%程度になる計算だ。
シ団引き受け比率の引き下げに市場は落ち着いており、シ団の将来的な廃止も既に織り込まれているようだ。市場の動向を気にして、いつまでも腫れ物に触るようにする時期でもない。