「ミスターSS(ショート・スクイーズ)の高笑いが聞こえる」(銀行系証券)―。ショート・スクイーズとは、売方に買い戻しを強いる「玉締め」のこと。空売り規制強化と公的資金による強引な相場介入で主要株価指数が急伸したが、いびつな手法に市場関係者の不満は依然くすぶっている。市場ではこの相場押し上げのシナリオライターとして、財務省“主犯説”が浮上、ある高官の名前が取りざたされている。かつて円高阻止で豪腕をふるい、ミスターYENとして名をはせた榊原英資元財務官ならぬ「ミスターSS」にがぜん注目が集まっている。
●大きな画を描ける人物
市場関係者がしきりに口にするミスターSSと目される高官は、将来の財務官候補の筆頭との評判が高い財務省官僚だ。同氏は、旧大蔵省の国際金融局、証券局などを経て、金融監督庁(当時)に出向。同庁の有力ポストを経て財務省に帰任した。
輝かしい経歴とともに、金融業界や海外当局者とのパイプも太い。市場の機微にも通じている上、政界幹部とのディープな交渉もこなすスーパー官僚といわれる。「かつてはある県の知事選に出馬するとの観測も出たほど」(大手銀企画担当者)。
金融界では「天下国家を論じ、大きな画を描ける人物」(同)との人物評も。今回、財務省“主犯説”がささやかれているのは、同氏が年初からたびたび「株は必ず上がる」と金融界や政界、マスコミ各社に予言していたことが背景にある。同氏は「行政が何をやれば相場が動くかをいやらしいくらい知っている」(先の銀行系証券)ともいう。
●強引な手法に懸念も
しかし、行政の介入を嫌う市場関係者が素直に「ミスターSS」なる称号を同氏に付けたわけではない。同氏がかつて証券局時代に関わった三洋証券や山一証券の破たん処理では、「強引なやり方で相当金融界の反感を買った」(大手生保筋)との不満は今でもしこりとなっている。
加えて「銀行や生保の株式含み損がどのポイントで消滅するかだけを意識して相場を操作したフシがある」(別の銀行系証券)との不信もくすぶる。「行政主導でなんでもできるという意識が、過去の強引な行政手法とオーバーラップして嫌悪感を覚える」(同)との言葉にもつながっている訳だ。
株式市場の所管は金融庁で、財務省が何か行動を起こしたとする証拠はない。またミスターSSが関与したとの確実な証拠を持つ市場関係者も皆無だ。
ただ、今回の相場急伸劇が「空売り規制強化と違法行為を行った外資系証券の摘発、公的資金の買い支えと、あまりにコマが揃いすぎた」(米系証券)ことから、かつての行政手法の復活を思い出した関係者が多いのは事実だ。ミスターSSの動向は、しばらく金融界の注目を集め続けるだろう。
(相場 英雄)