1931年に創業、70年の歴史を誇り「豆単」、「蛍雪時代」や学習参考書などで知られる旺文社が、三菱商事<8058>の資本を仰ぐことになった。旺文社に限らず、教育関連産業全般に少子化の影響による先細りが懸念されるが、同社は三菱商事という バックボーンを得ることで再生させたいという。
●ネット教育事業で活路を
三菱商事が第三者割当増資で25%の株式を持つことになるが、気になるのは、依然として残り75%のマジョリティーは、創業家の赤尾文夫社長が握っていること。三菱商事としては、英語教育関連事業を軸に、生涯学習の機運が高まる中での社会人市場、あるいはインターネットを活用した英語教育マーケットに活路を見出したいようだ。が、25%という出資比率はいかにも中途半端。拒否権が発動できる33.4%を持たないと、赤尾一族に体よく使われる恐れがある。まして、ここ数年、旺文社はゴタゴタ続きで、リストラや希望退職でようやく6期連続の赤字から脱却したばかりである。
だが、出資比率とは裏腹に、力学的には三菱商事側に数字以上の自信があるようだ。旺文社の笠原賢次郎取締役は、「三菱商事は、パートナーと呼ぶには規模が違い、失礼な気もするが・・・」と語っていたが、今回の資本提携は、そもそも赤尾氏の方から、1年前に三菱商事に接触した経緯があり、三菱側も「当然、旺文社の経営内容はいろいろ調べさせてもらった」(某役員)と言う。つまり、不採算部門の縮小やリストラは行なったものの、事業再構築に社内だけで取り組むには限界があるとして赤尾氏がつてを頼って、提携話を持ち込んだわけで、旺文社は完全に足元を見られている。
●1年かけてじっくり調査
確かに出資比率だけでは判断できない。待ったなしの旺文社はせっかく得たパートナーに逃げられては困るし、事業推進に当たっては旺文社側が譲歩していくことは確実だ。出版内容の性格上、堅い企業のイメージがある一方で、放送会社からは鼻ツマミ者視されてきた。提携実現までに1年もの期間を要したのも、三菱商事が旺文社をいろいろな角度から調査してきたからにほかならない。
旺文社は、96年に所有していたテレビ朝日(全国朝日放送)<9409>株を、当時、メディア王と言われた豪州のルパート・マードック氏に売却しているが、この取引が違法と見られ、追徴課税を命じられている。これに不服とした旺文社は提訴し、昨年11月、ようやく東京地裁の判決で決着、結局この追徴課税は取り消された。
さらに、長年旺文社の株式支配に悩まされてきた文化放送も、昨年、ようやく旺文社が文化放送株を手放したことで一件落着した。それまで文化放送の大株主として赤尾一族が君臨したのをいいことに、文化放送の利益を食い物にし、それを旺文社グループに還流させ、ひいては赤尾一族の蓄財に繋がっていたという図式も指摘されていた。
●近い将来に社長も派遣?
一面ではこうしたマネーゲームに狂奔する経営者が、本業で成長を持続させるのは難しい。折からの不況と少子化で完全に壁にぶちあたった旺文社は三菱商事にすがりつかざるを得なくなったといっていい。
今後、旺文社は、一段と事業をスリム化して絞り込み、三菱側からも役員を受け入れることになる。が、ことによると、先日発表となった三菱商事が筆頭株主のローソンに、43歳の部長クラスを社長に送り込むのと同様に、近い将来、赤尾氏を会長に棚上げして社長ポストも奪取する事態が訪れる可能性もある。コンビニ・スーパー などに限らず、出版事業の分野まで総合商社のヒト、モノ、カネの支配が始まった。
(吉野 経)