米軍によるイラク攻撃の観測が強まるなか、原油相場は2月25日以降、約20%上昇した。しかしアナリストの間には、世界全体の供給量を考えれば、相場の上昇ペースは行き過ぎかもしれないとの見方が多い。
1990−91年の湾岸戦争以降、イラクの1日当たりの原油生産量は100万バレル減少して約250万バレルとなった。これは世界全体の約100分の3にすぎない。さらに中東地域全体には現在、イラクを除いても約500万バレルの生産余力がある。
経済研究所アルシャルの石油アナリスト、アルサドゥン氏は「(イラクの生産が停止しても)中東地域の供給体制が崩れることはないというのが、一般的な見方だ」と指摘、「湾岸諸国には、(イラクが開けた)穴を埋めるのに十分な供給能力がある」と語る。
15日にウィーンで開かれる石油輸出国機構(OPEC)の定例総会を前に、チェイニー米副大統領は中東諸国を歴訪している。対テロ戦争への支持を得るためだ。アナリストの間には、米国の対イラク攻撃観測が原油相場を約2ドル押し上げたとの声がある。
一方、イラク攻撃を材料にした原油相場の上昇局面は短命に終わるとの見方も根強い。イラクがクウェートに侵攻した90年8月、原油相場は2倍以上跳ね上がり1バレル=40ドルとなった。その時もイラクとクウェートの石油生産はストップしたものの、サウジアラビアがその穴を埋め、原油相場はすぐに正常な水準に戻った。
昨年は世界的な景気減速で減産を強いられたOPEC諸国に、生産余力が生まれた。OPEC諸国(イラクを除く)は昨年、生産枠を日量合計350万バレル削減。ことし1月1日にはさらに同150万バレル削減した。
代替は見つかる
国際エネルギー機関(IEA)によると、OPECの産油量は2月に10年ぶりの低水準を記録した。この結果、イラクを除くOPECの生産余力は合計で日量約672万バレルに達した(ブルームバーグ推定)。
国連がイラクに対する監視を緩和・中断する確率は、昨年9月11日の同時テロ攻撃をきっかけに低下した。米国と英国が強い態度で国連によるイラクの武器査察を再び要求したためだ。イラクと国連の対立に改善の兆しはなく、ブッシュ大統領も対テロ戦争の次の標的としてイラクを挙げている。
しかし、OPEC諸国は国庫収入を増やすためいつでも増産に動く態勢を整えている。一方、世界の石油需要もことしは1%未満の増加にとどまるとみられている。
このためアナリストの間には、フセイン・イラク大統領の原油という武器を恐れる理由はほとんどないとの見方もある。中東経済専門誌ミドル・イースト・エコノミック・サーベイ(MEES)のマネジングパートナー、ハドゥリ氏は「現在の情勢下では、イラク産石油の代わりが簡単に見つかる」と話している。(ショーン・エバーズ)