NECは14日、定期昇給の実施時期を半年遅らせて10月から実施することを労組側(組合員2万1000人)に申し入れたことを明らかにした。電機大手は13日の春闘回答で、定期昇給分の賃上げ確保など「賃金体系を維持する」としていたが、同社では業績悪化と先行きが不透明なため、昇給延期を春闘交渉とは切り離した緊急措置として申し入れた。日立製作所も4月から1年間の限定措置として全従業員(組合員4万7000人)の賃金を5%引き下げる方向で組合と交渉に入った。東芝も、限定措置として同様の賃金削減策を検討している。
電機大手では春闘の合意が事実上、打ち消される動きが回答直後から相次いでおり、改めて春闘の存在意義が問われることになりそうだ。
NECでは来年度に人件費の約1000億円圧縮を計画しており、定昇の実施延期は「総額人件費の圧縮策」として申し入れたという。日立では春闘回答で、定昇分として平均2%の賃上げで合意しているため、実質3%の引き下げになる。日立は労使交渉がまとまり次第、賃下げに踏み切るが、一般社員の賃金カットは戦後初めて。両社とも回答直後の交渉入りだけに労組側の反発も予想される。
NECの02年3月期連結決算の業績見通しは、主力の半導体の不振にリストラ費用が加わり、3000億円の最終赤字。今年度中の人員削減は約1万4000人に達する。日立は同連結決算で過去最悪の約4800億円の最終赤字を見込み、今年度中に約1万6000人だった削減計画を今年6月末までに2万900人に上積みしている。 【熊谷泰】
◆NECや日立製作所の定昇圧縮などの提案は、「緊急措置」をうたいながら、総人件費圧縮を目指す経営主導の「構造改革」と言える。年齢や勤続年数に応じて賃金が増えていく仕組みはもはや維持できない、という宣言でもある。同様の動きが広がり、本格的見直しにつながるのは必至だ。
春闘終結後という一見非常識なタイミングは、「この時期を逃せば困難になる」という読みに基づく。IT(情報通信)不況に直撃され、中国台頭による国際競争力の低下などで業績が急悪化している中、ソニーを除く大手6社の02年3月期連結決算は、最終赤字が2兆円に迫る見通しだ。
しかし、定昇維持を約束した13日の春闘回答は、産業別の縛りで各社の窮状を反映させにくい「表向き」のものだった。各社労使は、すでに賃金体系に踏み込む議論を交わし、従業員側にも「やむを得ない」との空気が広がっている。
賃金体系の変革では、三菱電機が昨秋から、年3000円の昇給の見直しに取り組んでいる。産別労組の電機連合で「もはや(賃金の)上げ幅ばかりを問題にしても仕方ない。適正な賃金水準を各社ごとに労使で検討していく必要がある」と、個人の能力や職種で最低水準を設定することなどを検討している。今回の提案は「期間限定」の措置だが、抜本的変革の一歩になるのは間違いない。 【熊谷泰】