「暴騰か、暴落か、相場は今年最大の分岐点を迎えている。本当の勝負どころに差し掛かった」―有力外資系証券のトレーダーは、13日午後、筆者にこう語った。2月末から記録的な反騰に動いた株式相場は、さすがに今週に入って息切れムードだが、これについては「一時的なスピード調整。疲れを癒せば、また突っ走る」とみる強気派と、「最大の原動力である売り方の買い戻しが一巡し、再び暴落コースに転落しかねない」とみる悲観派とがガッブリ四つの様相だ。
こんな時、相場の羅針盤として、しばしば脚光を浴びるのが、経験則の集積でもあるチャート診断。「相場は相場に聞け」のスタンスから、今、テクニカル・アナリストが熱い視線を注いでいる指標のひとつが株価の反騰によって前週来、記録的な数値に達している「騰落レシオ」だ。
●短期的には超・過熱水準に届く
騰落レシオは一定期間を区切って、その間、毎日の市場全体の値上がり銘柄数を値下がり銘柄数で割って百分比を出し、それを移動平均化したものだ。
と言っても、ピンとこないかもしれない。この場合、「一定の期間」とは、通常、日本では25日間となる。つまり、日々の値上がり銘柄数を値下がり銘柄数で割って得られた百分比(%)を25日分、合計して、それを日数(25日)で割ると、騰落レシオの値がでてくる。騰落レシオが100%の場合、値上がりと値下がりの銘柄数が同数。また90%だと、値下がり銘柄数が値上がり銘柄数に比べ、10%多い、ということになる。
通常、このレシオが120%以上になったら値上がり銘柄が多く、警戒水準とされているが、3月11日には134%台まで高騰。140%台乗せも目前となるなど、「相場は超過熱状態」(大手証券)に踏み込んだ。その後は、セオリーどおり株価は反落しているが、問題は今後、どうなるかだ。
●事例多い株価の「後追い天井」
バブルが崩壊した1990年以降の相場を振り返ると、騰落レシオが140〜150%台をつけたのは9回。そのほとんどが、それから早いもので数日後、遅いものでも約2カ月後に株価は中期的な天井を打って再び下降に転じている。
騰落レシオ120〜130%台のケースでも、結果はさほど変わらない。昨年の場合、4月19日に127%まで上昇したあと、騰落レシオは反落するが、実際の日経平均株価は5月7日の1万4529円までハネ上げたところで頭を打った。
また、昨年10月25日には騰落レシオが129%台に上昇したが、株価はその1カ月後の11月26日に1万1064円でひとまずピークアウト。こうした両者の関係からも分かるように、数あるテクニカル指標の中でも有力な相場の“水先案内人”といえるのが騰落レシオだが、これまでの実績を踏まえるなら、悲観派が説く「株価は要警戒ゾーンに入った」との見方は、それなりに説得力がある。
●強気派、99年のケースを指摘
ただ、注意したいのは、相場が劇的な反転コースに入り込むとき、この騰落レシオもまた異常値をつけることがある、という点だ。
強気派のテクニカル・アナリストが指摘するのは約3年前の99年4月のケース。同年4月9日に騰落レシオは141%を記録し、以降、下降していく。しかし、4月当時、1万6000円台だった日経平均は「IT景気」を背景に一貫したジリ高基調をたどり、5月に1万7000円台、7月に1万8000円台、そして翌年(2000年)4月6日には2万833円まで伸び上がって、ようやく天井を打った。つまり、騰落レシオの記録的数値の出現後、1年間にわたって上昇相場が繰り広げられたのである。
●「25日線」との上方カイ離も注目
もうひとつ、見逃せない数値がある。前週末8日には、日経平均が、その25日移動平均値に対して15.1%の上方カイ離率を記録した。これは、1950年(昭和25年)7月17日の20.7%、同年7月15日の15.6%に次ぐ戦後、第3位のプラス・カイ離率だ。52年前の7月当時といえば、朝鮮戦争による「特需」で日本経済が復興景気の入り口に立ったばかりの段階だった。
今回も相場の“深部”で、何かが大きく変わろうとしているのではないか―株式市場では、現実に今週に入ってから、こんな声が広がり始めている。
(楠 英司)