ペイオフ解禁を控え、金融機関が納付している預金保険料の料率が年度末で区切りを迎える。ペイオフ凍結期間は、特別資金援助などを行うための特別保険料と一般保険料の合計で、対象預金の0.084%を毎期納めていたが、4月以降は別体系となる。預金保険機構は、普通預金や当座預金などの決済性預金を全額保護する来年度の保険料について、決済性の保険料を引き上げながら、保険料総額は現行水準(約5000億円)を維持する案を金融界に提示しているが、負担額が大きい大手銀などでは、可変保険料率の導入を訴える声があがっている。
来年度の預金保険料率は今月末までに決める予定。ただ、預金の全額保護を続けた「特例期間」の間に金融機関の破たんが相次いだため、預金保険の財政事情は厳しい状況にあり、預金保険機構は、保険料総額はこれまでの実績とほぼ同じ年間5000億円程度を維持する方針だ。さらに、各金融機関の負担は、現状と同様、全金融機関一律の保険料率の適用が想定されている。
大手銀グループでは、1グループで年間400〜500億円程度の保険料を納めているところもある。約5000億円の保険料総額のうち、大手銀の負担が小さくないのは明白だ。「これまでの水準でも、負担は限界に近い。保険の必要性の高い金融機関ほど、多くの保険料を負担する預金保険制度本来のあり方を考えると、疑問はある」(大手銀企画関係者)との声が聞かれる。
金融関係者の間では、金融機関の財務の健全性などを判断基準に、各金融機関の保険料に格差を設ける可変保険料の導入が理想で、全金融機関一律の保険料には疑問があるとの意見は、従来からある。可変保険料を導入すれば、健全性の高い金融機関は預金保険料の支払いを軽減、または免除される。ある大手銀首脳は、「理想論から言えば、可変保険料がベストだ。銀行にこれだけ格付けなどの差があるのに、預金保険料が全金融機関一律というのは、おかしい」と指摘している。
また、預金保険制度が全金融機関一律の保険料の下で大手銀の保険料に依存する状態が続くことについては、「株主の立場からいっても、見直しが求められる」(野村証券金融研究所の溝渕明氏)との見解がある。
ただ、可変保険料の導入には障害がある。まず、金融機関が納める保険料だけでは足りず、借入金でしのいできた預金保険の財政問題が立ちはだかる。特例措置終了後の預金保険制度のあり方を論議した金融審議会の答申(1999年12月)では、「一般勘定の借入金を早期に返済し、さらに、将来に備えて一定規模の責任準備金を積む必要がある」としており、金融機関の保険料が、既に世界的にも高水準にある中でも、年間5000億円程度の総額が必要、との立場だ。
こうした前提に立つと、大手銀グループの負担は軽減しにくい。ある大手銀幹部は、「預金保険料を税金にたとえれば、大手銀の負担を軽くすることは、大口納税者がごっそり抜けてしまうのと同じ」と表現する。一方で、経営体力の弱い金融機関の保険料負担を上げるにも、現行の保険料水準が既に限界に近いとすれば、大手銀などの負担軽減分を別の金融機関の保険料で補うのは困難だ。可変保険料支持の前出の大手銀首脳も、「ペイオフを控えたところであまり混乱させると、歯止めが効かなくなる。可変保険料はもっと金融が安定した時に入れるべき」という。
前出の金融審議会答申では、金融機関の財務状況などを判断材料に保険料に差をつける可変保険料率の導入について、「金融機関の財務状況等に応じた保険料率の枠組みの検討は早く進めるべきであるが、その実施については、当面、慎重に対応すべきであると考える」としている。
預金保険料は、決済性預金の全額保護が終了する2003年4月以降の預金保険料を決める際に再び議論される見込みだ。欧米には預金保険料と無縁の銀行もある中で、銀行関係者が「経費の中でも無視できない存在」と口をそろえる現行の負担が続けば、大きなハンデになりかねない。