日本銀行は11日、山口泰副総裁が7日にスイス・バーゼルで行った講演内容を公表した。それによると、山口副総裁は「(金融市場に)多くのノンバンクや金融コングロマリットが参加しているという現実は、伝統的な最後の貸し手に関する議論を再考する必要があることを示唆している」と述べた。
講演は、山口副総裁が議長を務めるBIS(国際決済銀行)グローバル金融システム委員会(CGFS)開催による第3回システミック・リスク・コンファレンスで行われた。
山口副総裁は「現存するセーフティー・ネットの多くは、銀行システム内の連鎖反応を防ぐことを企図している。しかしながら、今や金融市場の存在が、ストレスを実体経済との間で伝播させるうえで重要な役割を果たしていることを忘れてはならない」と指摘。
さらに「金融市場とそのダイナミクスの重要性は、日本、アジア、ロシアそしてLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)危機の経験からも浮き彫りにされる。ロシアLTCM危機がそれ以前の危機と異なるのは、金融市場が銀行危機を伴うことなく、機能停止してしまった点にある」と述べた。
人工的にモラル・ハザード作ることも
山口副総裁は「金融市場のグローバル化の進展に加え、金融統合の結果巨大な金融機関や複雑な構造を持つ金融コングロマリットが次々と誕生していることもあって、システミック・リスクがひとたび顕現化した場合のコストは膨大なものとなる可能性がある」と指摘。そのうえで「危機管理を考えるうえでは、金融環境の変化は、従来当然と考えられていたことの再考を促しているように思える」としている。
山口副総裁は「顕現化しつつあるシステミック・リスクに対応するには、その影響が破壊的であるが故に、人工的にモラル・ハザードを作り出すことによって、鎮静化を図らなければならないという矛盾する側面があることを見過ごすべきではないだろう。現実の政策対応において、当局はシステミック・リスクの抑止とモラル・ハザードの極小化というトレード・オフの中で厳しい選択を迫られる」と述べた。
さらに「中央銀行の『最後の貸し手』機能も、その一例である。伝統的な考え方によれば、最後の貸し手機能は、銀行のみを対象としている。しかし、既に述べたように、金融市場自体がシステミック・リスクの発信源となり得、しかもその金融市場には銀行だけでなく、多くのノンバンクや金融コングロマリットが参加しているという現実は、伝統的な最後の貸し手に関する議論を再考する必要があることを示唆している」と述べた。