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JPモルガンは前世紀における米国の偉大な金融家であり、1913年のFRB創設以前には事実上米国の金融システムを動かしていた。そして少なくとも一度はウォールストリート危機を回避する栄誉を担った。初代JPモルガンの死後数十年、その名を受け継いだ銀行は、世界でも最優良の存在だった。
しかし、1990年代の商業銀行から投資銀行への転換はうまくいかず、2000年のチェースとの大合併も主導権を握ったのは、むしろチェースからやってきた実力派であった。当初は合併銀行はシンジケートローンやデリバティブ市場で圧倒的なシェアを握り、ゴールドマンサックスやモルガンスタンレーのような投資銀行と覇を競っているかに見えた。だが、そのシンジケートローンから不安の種が撒き散らされた。
まずエンロンの破綻に伴う不良債権の処理。つい昨年秋までモルガン会長のハリソンはエンロンとの取引を自慢していた。JPモルガンはこれまで4.51億ドルの債権を償却したが、潜在的な損失は26億ドルに達すると認めている。さらに悪いことに、モルガンは当初、エンロン向け融資額はわずか9億ドルにすぎないと公表していたのだ。
モルガンのシンジケートローンの市場シェアは37%という圧倒的なものだが、企業倒産が相次ぐにつれて、このシェアの重みが裏目に出つつある。Kマート(流通)、グローバル・クロッシング(通信)、NTL(欧州のCATV会社)等の連続大型倒産はすべてモルガンへの不良債権として重くのしかかってきつつある。
モルガンは得意なはずのデリバティブ取引でもトラブルに巻き込まれている。保険会社との訴訟騒ぎに発展しているマホニア事件である。エンロンと石油取引していたマホニア(チャネル島に本拠のある、モルガン銀行の事実上のペーパー子会社)の取引リスクをカバーするはずの保険金について保険会社が、エンロンとマホニアの取引は事実上のモルガンからの融資だ、として保険金を支払わないという措置に出ている。未払い保険金額は10億ドル相当に達するという。
一連の企業倒産事件がモルガンに及ぼす影響について、アナリストの見方は分かれている。楽観派はモルガンへの批判は行き過ぎで、430億ドルのバランスシートの強さを忘れてはいけない、と主張している。他方、悲観派はモルガン株は早期に売却した方がよい、と反論している。
当のモルガン銀行では、シャピロ副会長が「問題は何を知っていたかではなくて、何が開示するに適切であったかである」と語っている。モルガンの株を保有するもの、ないしは取引関係を持つものにとって、この発言はぞっとするものだろう。
(英エコノミスト2月6日号)