約1カ月ほどかけてブラジル、アルゼンチンを旅し、3月3日に帰国した、大和証券投資信託委託・調査本部長付・主席研究員の林康史さんは、現地でアルゼンチン経済危機を目の当たりにした実感を、こう語る。「今回、アルゼンチンで経済危機が起こるにおよんで、わが国でもアルゼンチンとの類似を指摘する向きもあります。日本を発つ前は、そんな馬鹿な話はあるかと思っていましたが、現地で感じたことは、これは他山の石とすべきではあるな、ということでした」
<日本は、唯一の望みである人的資源に頼るしかない> わが国の近未来像は財政負担にあえぎながら、有効な手も打てず、不景気にあえいでいるというもので、これはアルゼンチンの現況や近未来像と似ている。しかし、「天然資源がない分、日本のほうが悲惨な状況が待っているのかもしれません」として、日本は唯一の望みである人的資源に頼るしかないと言う。
<深い部分でアルゼンチンは日本の姿を先取り?!> しかし、実は、現象面が似ているばかりでなく、「深い部分でアルゼンチンは日本の姿を先取りしていたとも思われます」。それは「国家としてのポリシーというか、将来像を定め、それに向かって歩くということをやめてしまったことだ」と言う。構造改革といっても具体的でないという守旧派もまだまだ多いし、社会システムの再構築を目指すのか、代価を払って景気浮揚のためのカンフル剤を打ち続けるのかも、国として定まっていないようだと言う。国民も構造改革賛成と言いつつ、失業対策を願う。「総論賛成、各論反対」といったところ。政治家、官僚、企業の自信喪失・モラル低下もはなはだしい。「これは実は日本の問題でもあるのです(もちろん、ラテンアメリカのそれは桁違いに大きいようですが)」
<通貨ペソ急落でも、不幸は始まったばかり> 林さんのアルゼンチン滞在中にも、アルゼンチン通貨・ペソは再び下落しはじめたように見受けられた。ペソは約半分の価値になって落ち着いているかにも見えたが、「私には不幸は始まったばかりに見えます」。海外ばかりか国民自身もドルをタンス貯金したり、米国やウルグアイ(金融に関しては、ロンダリングも含めて、ラテンアメリカにおけるスイスの役割を果たしています)という外国での口座に何とかして移していくことでしょう。誰もアルゼンチンに投資しない。近いうちに、「ペソはここから更に半分(つまり、1ドル=4ペソ)になっても全く不思議はない」と予想する。トルコと同様に、IMFの処方箋が間違っていた可能性も確かに高い。しかし、トルコは真面目にIMFの処方箋に応えようとしてきたのと比較し、アルゼンチンはいい患者ではなかったとも思えると言う。「その点が、今後、どうなるのかも注目ポイントでしょう」
<自分たちの国の将来は、自覚を持って選択すべし> 林さんがアルゼンチンのあちこちで、「金融経済と金融法制度の研究をしている」と自己紹介すると、皆、「どうすればいいと思うか」と真剣な眼差しで聞いてきた。テレビでも連日、「危機脱出を探って」といったタイトルの番組の放送を続けていた。マイクを向けられた市民は、当然、予想されることだが、現状への不満を述べるばかりだったのが印象的だと言う。結局は、「自分たちの国の将来は、自覚を持って選択しなくてはならない」。アルゼンチンは、そのことを私たちに教えてくれている気がした、と言う。