「いくら金融庁が『中小企業に対する貸し渋りを防止する』と旗を振ってみせたところで、信金、信組の多くは簡単には応じられないだろう」
東京都内に本店を置く信金の理事長はこう言ってみせる。
金融庁は今3月7日、全国銀行協会、全国地方銀行協会、全国信用金庫協会などの金融業界団体のトップと会談を持ち、「中小企業向け金融の円滑化」に向けた意見交換を行い、中小企業に対する“貸し渋り”を阻止するための施策の実施を要請する予定だ。
「この“意見交換会”には、柳沢伯夫金融担当相および森昭治金融庁長官などの幹部が出席します。これに加えて、財務省や経済産業省の幹部、さらに政府系金融機関のトップの出席も予定しています。こうした出席メンバーの顔ぶれから考えても、この会合がどの程度の位置付けにあるかがわかるでしょう」(金融庁幹部)
もっとも金融庁サイドはこれまでも、年末や多くの企業が決算期を迎える年度末といった資金需要が高まる時期には、企業−特に経営基盤の脆弱な中小・零細企業に対して円滑な資金の供給を図るように金融業界にたびたび要請してきたと言っていいだろう。つまりこの種の“会合”は年中行事化しつつあったのである。
「しかし今年度末の場合、日本経済全体がデフレ・スパイラルの様相を強めつつある中で、“貸し渋り”の傾向はこれまで以上に強くなりつつあるのが実情なのです。そうしたことから金融庁としても、今回ばかりは本気で対応せざるを得ない状況に追い詰められてしまったのです」(金融庁幹部)
とは言っても、こうした一連の動きを、金融庁サイドが危機的状況を迎えつつある中小・零細企業の経営状態や経営環境に危機感を強めたため、と受け止めるのはあまりにも早計だと言えよう。
「金融庁としては単に自己保身に走っているにすぎません」(金融庁関係者)
それは一体どういうことなのか。
「実は、大手行に対する公的資金による資本注入を実施するにあたってその前提となる“危機”を認定する際に、“大規模な貸し渋り”というものが認定条件の1つにあるのです。言うまでもなく金融庁としては、公的資金投入は是が非でも回避したい、というのが本音です。そこで、“大規模な貸し渋り”という事態が発生することを何としても食い止めたい、ということなのです」(金融庁関係者)
しかも2月27日の経済財政諮問会議で正式に最終決定した「総合デフレ対策」の中にも、“中小企業対策”という項目が盛り込まれている。
そうしたところから、金融庁としても本気になって動かざるを得ない状況に追い込まれてしまった、と言っていいだろう。
「もっとも仮に金融庁が、金融業界に対して中小企業への融資を積極的に対応するよう要請したとしても、“金融検査マニュアル”で、ガチガチにしばられている金融業界としては、簡単にその要請に応じることなどできないだろう」(前述の信金理事長)
金融庁幹部が言う。
「そうした状況にあるということは金融庁としても十分に認識しています。ですから、今日の会合では、信用保証協会を積極的に活用していく、という方針が確認されることになると思います」
もっとも、信用保証協会を利用するためには、企業サイドに相応の担保があることが前提だ。
担保を持たない企業は、切り捨てられることになるのだろうか。
2002/3/7