日本銀行は5日、政策委員会の中原真審議委員が2月20日にスペイン大使館で行った英語での講演の日本語訳を公表した。それによると、中原委員は「政府・日銀は一体となってデフレを克服するつもりだが、金融政策が限界に近付いてきていることは事実であり、デフレがさらにスパイラル的に深刻化する場合には、財政の出動と合わせた非伝統的な政策の発動も全く排除するわけにはいかないと思う」との見解を示した。
中原委員は「マネーサプライを引き上げる一つの方法として、短期金利やベースマネー以外の操作変数を操作することが考えられる。具体的には、為替、長期金利を操作対象とすることや民間信用の需給に中央銀行として介入することだ。これらはいずれも伝統的な中央銀行の金融政策ではない。為替は現在の日銀法の下では金融政策の非操作対象だ。様々な要因で決定される長期金利は、必ずしも十分に操作可能とは言えない」と指摘。
さらに「株やCP・社債等民間信用は操作技術が不足している。中央銀行の資産の健全性をどう考えるかの問題もある。このような非伝統的な政策は、中央銀行の裁量で為し得るかという問題もある」と述べたうえで、「デフレがさらにスパイラル的に深刻化する場合には、財政の出動と合わせた非伝統的な政策の発動も全く排除するわけにはいかないと思う」と述べた。
「物価は長期的には貨幣的現象」
中原委員は「私は『物価は長期的には貨幣的な現象であり、経済が正常な状態であれば、金融政策はデフレを食い止めるために有効である』と思う」としながらも、「金融政策が有効になるためには、経済活動の結果としてのマネーに対する需要が増え、それに対してマネーを供給するルートが正常に動いていることが必要だ。現在、企業・家計の取引動機に基づく貨幣需要がほとんどない」と指摘した。
また、「一定のポジティブな物価上昇率を、期待インフレを醸成するためではなく、中長期的な金融政策のフレームワークとして中央銀行が持つ、または政府と共通認識を持っていることは、必要かつ意味のあることと思う。もちろん、どのような物価指標を用いるか、その程度の数字を明示するかは十分検討が必要だ」としている。
「もはや、やるべきことがないとは思わない」
中原委員はさらに「金融政策はもはや、やるべきことがないとは思わない。当面、潤沢な流動性の供給により金融システムを安定させることが最も重要と思う。金融市場は、ペイオフ解禁の前に、予備的動機に基づく予期しない貨幣需要が生じる可能性があるからだ。このため、信用不安を取り除くのに有効であれば、さらに流動性を供給するための方策を検討する必要があるかもしれない」と指摘した。
そのうえで「同時に、マネーを正常に供給するルートを回復しなければならない。即ち、日本経済が悩んでいる問題−−需給ギャップ、財政赤字、不良債権−−の解決が欠かせない」としている。