長らく低迷していた株価が、ここにきて急上昇している。平均株価は4日、今年最高の上げ幅となる638円高を記録、出来高も約13億株と今年最高に。5日は反動からやや鈍い展開になっているものの、市場関係者の間には「3月危機は当面回避された」と安堵(あんど)感も漂っている。ただ、「不良債権処理の抜本策はまだ示されておらず、危機が先伸ばしになっただけ」(大手証券)との指摘があるのも事実。3月危機は本当に去ったのか−。
昨年9月の米同時多発テロ事件以降、低迷を続けていた株価は、2月6日に9420円のバブル崩壊後の最安値を付けた。株安につられて円、国債も下落するトリプル安となり、「底値の見えない状態」(同)にあえいでいた。
いよいよ8000円台突入かとみられていたが、2月6日を底値に上昇に転じる。同27日には、政府の「総合デフレ対策」が発表され、そこに株価対策として「カラ売りの価格規制の強化」が盛り込まれたことで、「売りが押さえ込まれた」(同)のだ。
金融当局は政府の本気度をアピールするように、同26日、外資系証券会社4社に対してカラ売り規制に違反したとして行政処分を断行。株式市場に買い安心感が広がった。
政府の思惑は見事に当たり、株価は反転上昇。底値を付けた2月6日からわずか1カ月間で約2000円も上げた。
株価上昇の背景には、不良債権処理の加速期待もある。今月3日には、メーンバンクのみずほの“決断”で準大手ゼネコンの佐藤工業が会社更生法の適用を申請。「銀行の不良債権処理が加速する」(別の大手証券)と、これまで銀行株などを売り浴びせてきた外国人投資家らの買いを誘ったのだ。
東京証券取引所の取引シェアの過半数を占める外国人パワーは絶大で、先月末からは1日の出来高が10億株に乗せ、4日には13億5000万株と今年1番の出来高となった。
ただ、この相場、政府演出の“官製相場”との指摘もある。3月決算期末に向け、このまま株価が低迷し続ければ、銀行の経営体力も磨耗。保有株の含み損の6割が資本(剰余金)から差し引かれるため、不良債権処理の加速と相まって銀行の経営体力が低下し、金融システム不安につながる懸念もあった。支持率が低下した小泉政権にとって、株価の上昇は至上命題だったのだ。
米国景気も底打ち感が出てきており、NY市場の株価上昇も追い風となり、平均株価は3カ月ぶりに1万1000円台回復。小泉首相も「支持率が下がって株価が上がるのなら、支持率はもっと下がってもいい」と軽口をたたく余裕すらみせた。
しかし、このまま株価が上昇基調を続けるとみる市場関係者は少ない。「銀行はまだ多額の不良債権を抱えており、その処理の抜本策は示されていない」(外資系証券)のが現実だ。
プラス要因は、カラ売り規制強化と米経済への回復期待のみ。市場には「追加のデフレ対策や不良債権の抜本処理策が示されなければ、3月危機は乗り切っても、6月、7月危機が待っている」(準大手証券)との観測が依然根強い。
不良債権処理と同様、経済危機も先送りされただけというわけだ。