「4月1日のペイオフ解禁を直前に控え、金融業界の中でもその経営基盤が最も脆弱(ぜいじゃく)とされる信用組合業界としては、まさになりふりかまっていられない、というところなのだろう―」
金融庁幹部がこう言ってみせる。
昨年秋以降、経営破綻が相次いだ東京都内の信組業界で、この3月から奇妙な“制度”がスタートしている。
その“制度”とは、「しんくみ預金相互紹介制度」と称するもので、都内15信組が参加している。
その“制度”の仕組みについて、以下順を追って説明していくことにする。
基本的には、保護の対象外となる1000万円超の預金を都内の同業他信組に紹介する制度、と言っていいだろう。
具体的な作業の流れとしては、次のようになる。
1000万円以上の預金残高を持つ顧客がその預金の解約を申し入れてきた場合、信組サイドでは預金保険制度の仕組みを説明するのと同じに、前述の“相互紹介制度”を紹介し、この制度に参加している信組のリストを提示する。
顧客がこのリストからX信組をセレクトした場合、解約を申し入れられた信組はX信組に連絡を入れ、口座開設の要請を行う。
その後、顧客はX信組に直接出向き、口座開設の手続きを行い入金する。
ただし、紹介先であるX信組の預金受け入れ限度額は1000万円までとする。
都内に本店を置く信組理事長が言う。
「全く顧客をばかにした、そして無視した“制度”というしかない。やらないよりもやった方がマシだが、誰もこんな“制度”は利用しないだろう」
確かに、こんな面倒な制度は誰も利用しないだろう、というのが関係者の一致した見方だ。
「実は、ペイオフ解禁の影響を最も受けているのが信組業界なのです。4月1日を控え、都内の一部信組では異常とも言える預金の流出が加速度的に続いているのが実情で、業界としても極めて強い危機感を持っている。ところが、信組業界は有力信組の経営破綻が相次いだこともあって、業界としてのまとまりが全くなくなってしまっているのです。中央組織である全国信用組合中央協会(全信中協)にペイオフ対策について相談しても、『自助努力で何とかしてください。自己リスクでどうぞ…』と言うばかりで、中央組織としての体をなしていないのが実情なのです−」(前述の信組理事長)
そこで都内信組では仕方なく独自に、ペイオフ対策として前述したような“制度”をスタートさせたのである。
「まあハッキリ言って“ペイオフ対策”と呼べるようなシロモノではありませんね。実効性もほとんどない、と言っていい。いずれにしても、一部の優良信組を除いて、将来的に大部分の信組は消滅していく方向に向かう、といえるでしょう」(金融庁幹部)
ある金融庁首脳の物言いはもっとアグレッシブだ。
「4月1日以降、信金、信組などの中小金融機関が経営破綻した場合には−その可能性は極めて小さいが−、ペイオフを実施することになるだろう。その段階で、預金の大規模なシフトが発生し、問題のあるところは、いずれにしても自然消滅することになるだろう。しかし、彼らが生き残る方策は全くないわけではない。早くそれに気がつくべきだ」
都内の各信組は、このコメントを肝に銘ずるべきだろう。
2002/3/5