金融庁による強烈な空売り規制が奏功している上、公的資金による強引な相場介入まで動員した結果、主要株価指数が上げ続けている。だが、「官製相場」に株式市場関係者の不満も鬱積している。こうした中、「金融庁が“司法取引”を行った」との思惑が駆け巡っている。金融庁が司法取引を行う権限など持たないことは、冷静に考えれば理解できる話。しかし、いびつな相場形成に翻ろうされ続けている株式関係者は、不満のはけ口とばかりにこのうわさを口にしている。
●デフレ対策へ見せしめ処分
コトの発端は、金融庁が2月26日に発表した外資系証券4社に対する行政処分。同庁はドイツ証券、日興ソロモン・スミス・バーニー証券、クレディ・リヨネ証券、ベアー・スターンズ証券に対し、空売りなどの違法取引が認められたとして業務停止を含む厳罰を下した。同庁は咋年12月21日、証券会社284社に対し、空売りに絡んだ違法行為の有無を報告するよう通達。このうち、今回の4社が社内体制の不備を報告、処分につながった。
違法な空売り取引の件数が多かったとして、クレディ・リヨネには2週間、ベアー・スターンズには株式売買について1週間、関係会社との証券取引1カ月と、それぞれ業務停止命令と業務改善命令が下った。
一方、大手のドイツ、日興ソロモンに対しては、証券金融会社との諸手続きなどに不備があったとして、業務停止より軽い業務改善命令が下された。
翌2月27日に政府のデフレ対策の発表を控えていたことから、同庁が見せしめ的に行政処分の発表を行ったことは明白。処分に差が出たのは、違法取引の件数と内部管理の不備の度合いと言って良いだろう。
●大手外資2社との“密約説”
ただ、株式市場関係者はこの処分の差を素直に受け止めなかった。“司法取引”との思惑が広がった背景には、以下のような事情がある。
株式市場と同様に、政府当局は年度末の国債市場の動向に神経を尖らせている。外国人投資家による国債保有比率は全体の5%に満たないが、外資系証券が国債のトレーディングで思惑的な売り崩しを行えば、「銀行や生保の投げ売りを誘発する」(銀行系証券)のは必至の情勢だからだ。
このため、4社の処分が軽重二分されたのは、この中で相対的に国債の取引シェアの高いドイツ、日興ソロモンに対し「年度内は国債の売りを出さないことと引き換えに、業務停止処分を引っ込めた」(大手証券)と勘ぐっているのだ。
違法取引の横行を阻止するのは行政の責務。ただ、「市場機能をマヒさせる売り規制を強化し、株価が上がることのみを考えるのは、とても行政の仕事とは考えられない」(欧州系運用会社)との不満は増すばかりだ。広がっている“司法取引”の思惑にしても、「不満をどこかにぶつけたいとの心理が極限に達したもの」(同)とも言える。行政への不信感が高まれば、行政処分そのものの重みも低下するリスクがある。
(相場 英雄)