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政府の総合デフレ対策、回復の火付け役とはならず    S&P 投稿者 招き猫 日時 2002 年 3 月 04 日 20:35:12:

アナリスト: 根本直子

スタンダード&プアーズは本日、政府が27日に決定した総合デフレ対策に関する見解を発表した。政府の総合デフレ対策には経済を長引く低迷から浮揚させるための新たな政策や明確な行動プランはあまり盛り込まれていない。従って、スタンダード&プアーズの日本の金融機関に対する格付けに、直ちにプラスの影響を及ぼすものではない。
特に不透明なのは、以前から広く議論されている、銀行への公的資金注入の問題である。内閣、日銀、および主導的な与党政治家の間で、公的資金を含む重要な問題について意見が分かれているため、市場には政策の実行についての不安が広がっている。この不安が解消されなければ、体力の弱い金融機関は依然として不安定な状況に置かれる可能性がある。
総合デフレ対策は銀行への資本注入の問題に正面から言及しておらず、必要な場合には政府は資本増強を含むあらゆる措置を講じると述べられている。銀行に資本注入をすべきか否かの決定は、2002年3月頃に予定される金融庁による特別検査の結果発表後となる可能性が高い。スタンダード&プアーズは資本注入が行なわれるか否かという点よりも、むしろ、どのように公的資金を活用するのか、その条件に注目している。

1999年3月に行なわれた資本注入と同じ枠組みで公的資金が注入されるのであれば、邦銀が抱える根本的な問題、すなわち弱い収益性、大口貸出先への緩い規律、脆弱なコーポレート・ガバナンスなどの改善には貢献しないことになる。
前回のパッケージには、以下の弱点があった。


公的資金注入は銀行がすべて健全行であるとの判断の下に行われた。厳格な資産査定などにより、当該銀行の継続可能性を厳しく判定したとは言い難いケースもみられた。

コーポレート・ガバナンスがうまく機能せず、経営陣は、より高い収益の追求、信用リスク管理の抜本的な変更、大幅な合理化などの圧力を非常に強くは受けなかった。

中小企業向け貸出額の目標設定は、景気後退期では貸出基準の緩和と信用リスクの上昇につながるおそれがある。体力の弱い企業への支援を銀行に求めるような政治的圧力もみられた。
最近の政府の発表をみる限り、再生後の金融システムの明確なデザインや、資本注入に際しての条件に関する議論が十分に示されていない。大手邦銀に対する格付けは予想される政府のシステムサポートを織り込んでいるが、アウトルックはこうした不透明さも反映して「ネガティブ」となっている。
以前の資本注入と同様に、銀行への資本が優先株式の形で注入されるとすれば、すでに配当可能利益が低下している銀行にとって、継続的に配当金を支払うという負担は大きい。韓国では、1997年から1998年にかけての極めて厳しい金融危機からほぼ回復を果たしたが、政府は普通株式の形で資本を注入し、実質的に大手銀行の多くを一時国有化した。配当支払いは強制されず、銀行の経営陣は銀行の建て直しと民営化への準備に集中することができた。一方コーポレート・ガバナンスの強化としては、経営陣の刷新に加えて、所有形態が変わり、外国人株主の所有比率が高まった。そうした変革が奏効し、リスク管理および収益性の改善が実現された。

デフレ対策の中でプラスに評価される項目としては、整理回収機構(RCC)の機能が強化されることである。この結果、RCCは銀行からより柔軟な条件で不良債権を買い取り、また、問題企業の再生において果たす役割を拡大できる。韓国やマレーシアなど他のアジア諸国においては、債権買取機関が不良債権問題の解決により積極的な役割を果たしてきた。しかし、RCCが同様の役割を果たすには多くの障害がある。現行の体制ではRCCが購入する不良債権の額は銀行業界が抱える不良債権の総額と比較すると、なお限定的である。2002年3月までに2兆円の購入を目標としているが、これまでのところ銀行の経営陣は法人顧客との関係を重視し、RCCへの債権売却に消極的である。さらに、企業再生の専門家が日本には極めて限られていることも挙げられる。

不良債権問題を解決することは構造改革を推進する上で重要な課題であるが、経済環境が改善し、事業会社が収益性を高め、過剰な負債を削減しなければ、金融部門の健全化を達成することは難しい。日銀、および政府の実効性のある施策が必要である。また、最近銀行は大口貸出先数社に、デット・エクイティ・スワップや債権放棄によって支援を提供する計画を発表している。しかし市場参加者は、体力の脆弱な事業会社が、長期的に生き残りを果たせるのかについて、依然として懸念を抱いている。これは、銀行が主導する再建策が、往々にして銀行の体力の範囲内での負担にとどまり、より多額の損失をもたらす 踏み込んだ手段を避けようとする傾向にあるためである。事業会社経営陣、銀行および政府は、問題を抱えたセクターの再建について、一層明確な方向性を示し、具体的な計画を策定すべきである。

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