コンビニ大手のファミリーマート<8028>が3月1日付で社長交代を行った。空席だった会長に就いた田辺充夫氏は、社長になってまだ2年半。年齢も57歳という若さだけに、様々な憶測を呼んでいる。表向きの理由は「ウチは海外展開がほかのチェーンよりも進んでいて、台湾での上場も済ませている。会長が空席だと社長の負担が大き過ぎるので担当を分けることにした」(同社幹部)という。
が、これを額面どおり受け取る関係者は少ない。もともと田辺氏は、出身の伊藤忠商事<8001>では、当時最年少役員として話題となり、ファミリーマートからいずれカムバックし、ポスト丹羽宇一郎社長の最有力候補とも目されていたのだ。
●500店閉鎖で伊藤忠と対立
だが、ファミリーマートという「経営実務」をやらせてみて、伊藤忠首脳の田辺氏の評価に変化がみられるようになった。ある伊藤忠OBは「田辺さんは秘書経験も長く、瀬島(龍三・元特別顧問)学校の流れを汲む戦略家として知られており、戦略参謀としてはうってつけの人だった」と評している。
ところが、ファミリーマートという舞台に移ってから、田辺氏への評価は変わった。もともと、筆頭株主が西友<8268>から伊藤忠に変わり、フランチャイジーからは「商社の理論が多くて小売りの商売がわかっていない」という反感もあったほど。そこに田辺氏の投入でそうした声に輪をかけることになったのも事実。それでも田辺氏は、フランチャイジーの声をくみ上げようと務めてきたが、逆に親会社からの評価を下げた。
それは500店舗の閉鎖に対する対応だった。不採算点を洗い出し、業界初の大がかりな閉鎖を決めた伊藤忠首脳に対し、田辺氏は当初「フランチャイジーの動揺も考えてFCビジネスでは、500店舗の閉鎖を発表するのは影響が大き過ぎる」と抵抗したという。業を煮やした伊藤忠首脳は、電話でのやり取りの中で「あんたはそれでも経営者か」と田辺氏を罵倒したという話も漏れ伝わっている。
戦略参謀としては希有の実力はあっても、社内もまとめられず、経営者としての疑問符が付くことで、交代を早めざるを得なかった。
●日販60万円を目標に
新社長の上田準二氏も伊藤忠出身だが、伊藤忠傘下のプリマハムの出向も経験しており、常務としてファミリーマート入りしてからは、全国の主要な店舗を駆け回る、どぶ板営業が評価されている。頭脳派の田辺氏よりもフランチャイジーの評判は良い。ただし、問題はファミリーマートの今後の経営が、トップの首のすげ替えだけで劇的な改善ができるかどうかである。
とくに、伊藤忠の丹羽社長がハッパをかけているのがライバルよりも劣る日販の増額作戦。現在、1店舗当たりの平均日販がセブン―イレブン・ジャパン<8183>の70万円前後に対し、ファミリーマートは40万円台と低調。それを担当者が50万円に乗せると提案したところ、丹羽社長は「60万円にしろ」と檄を飛ばしたという。
ちなみに、伊藤忠の役員会では、ファミリマートのコンビニ弁当で会議をするなど、丹羽社長のパフォーマンスもなかなかだが、プライドが高いことでも知られる商社マン出身社長がドロ臭い小売業の舵取りをどこまで持続できるかどうか。ローソン<2651>を抱え込んだ三菱商事<8058>とともに、商社の意向が強く反映される両社の今後の展開が注目される。
(吉野 経)