不良債権と長期不況の同時治療は可能か
コメンテータ
顧問 佐藤公久
同時多発テロ事件、狂牛病問題など日本経済も大きな社会不安に遭遇し、経済活動の低迷に悩んでいるが、やはり根本は糖尿病(不良債権処理)と肺結核(長期不況)の併発への良い治療法が見い出さないことである。いくつかの政策が提案されているが、なかなか実効性あるものが提示されていない。以下いくつかの政策提案について論じて見よう。
提案1 調整インフレによる同時解決
通貨供給を意図的に増やし、物価を上げ、地価と株価を連動させることで、不良債権を優良化しようとするもので、ユニークな意見であるが、1)適度なインフレ(3%程度)に調整できるのか、2)金融政策でインフレを生じさせることができるか、問題とされる。
提案2 公共投資の持続的拡大による景気拡大、結果としての不良債権解消
自民党保守グループに根強い意見で、需要不足の現状を打破するためには連続的な公共投資の拡大により、景気を支え、浮上力をつけなければならないという意見であり、根底にはケインズ型経済政策への信頼がある。ただこれは1)公共投資の内容が現状ではマッチしない(土木系から情報系へ)、2)財政破綻を生じる危険が出てきた、3)公共投資が他の需要項目(消費、設備投資)回復の引き上げに結び付かないという批判が出ている。
提案3 まず不良債権処理を優先させ、その上で景気回復を図る(いわゆる構造改革派)
この政策主張は「不良債権が残る以上は企業のニューアクションは望めない。規制緩和を進めることで、過剰資源を整理し、市場競争を通じて、新産業分野の育成を図る」というものである。ただこれではマクロ経済からみれば、より不況の深刻化をもたらし、経済再建すらおぼつかないという批判がある。この意見のよりドラスティクなものに‘バンク-ホリディ’論つまり銀行国有化論がある。これは大胆な意見で説得力もあるが、より短期的経済インパクトが大きいこと、一種の預金封鎖までありうるので、国民的合意が得られないといわれている。
つまり両方の病気を一度に直す妙案が見つからないところに政策の手詰まりがある。ただ多くの経済学者から、1)現在の景気を下支えするために、ある程度の景気対策は持続する。つまり小泉内閣が主張している国債発行の限度額(来年度は30兆円プラステロ事件対策)設定型の公共投資(中味を変えながらの)展開である。2)不良債権処理こそ最重要課題で、この解決のためには、当面「建設ー金融」ラインの不良債権処理を優先する。つまり建設倒産の促進(?)である。負担をかぶる金融機関にはある程度公的資金(つまり税金)を投入することで、連鎖反応を防ぐ、3)株価対策を重視し、民間資金が参入しやすい条件づくりをする。この主張は基本的に小泉内閣が展開している政策そのものである。まだ各種の不備があり、実効度が上がっていないが、政策路線は間違えていない。
契機はこれから生じる不良建設業の整理である。マイカルの倒産で株価が急騰したことは、流通業のうみが出されたという市場評価である。3つの護送船団の解体は必要である。建設業の業界改善のための不良企業の倒産こそ、改革の第一歩である。
http://www.internetclub.ne.jp/TODAY/SATO/2001/1107SK.html