日銀は二十八日の政策委員会・金融政策決定会合でこれまでの金融緩和への追加措置として、中長期国債の買い切りを毎月二千億円増やし一兆円とすることを決めた。これによって、国債購入は銀行券の発行残高の範囲内とする購入枠をほぼ使い尽くす。市場では量的緩和の限界と、日銀の抱える金利リスクへの懸念がくすぶり始めた。(証券部 毛利靖子)
もう限界だ――。二十八日午後二時すぎ。米系証券会社のトレーディングルームでため息がもれた。機関投資家の買いで低下していた新発十年国債利回りは、日銀の決定を受け低下幅を縮小した。
今回の決定は国債の需給対策にはなる。新規財源国債の三十兆円に対し、日銀が市場から年間十二兆円も買えば影響は大きい。
ただ、日銀による国債購入規律がゆるむ恐れがある。日銀は野放図な買い入れ増を防ぐため、昨年三月、国債の現先売買を調整した実質保有分は銀行券発行残高までとしたが、月一兆円の買い入れはこの上限に近い。
市場参加者の目は次に向いている。日銀券が現状通り八%程度ずつ伸び続けたとしても、毎月の中長期国債買い切りオペをあと二千億円増やして一兆二千億円に拡大した場合、この上限を上回る公算が大きい。
政府、政治の圧力で次の一手を打てば、政府の言うままお札を刷り続けるとの連想が働く。そうなると「まず円相場が下落し、結果的に債券も売られるだろう」(野村証券の松沢中チーフストラテジスト)。
日銀の資産劣化を懸念する声も出始めた。JPモルガン証券によると、長期金利があと一%強上昇すると、日銀が国債の価格変動に備えた引当金(二・六兆円)が吹き飛ぶ。
将来の金利上昇リスクに備え、機関投資家は手持ちの国債の平均残存年限を短くしている。今や日銀が保有する国債の平均残存年限は五年強で、大手銀行(三―四年)より長い。
購入額が増えるほど、金利上昇に対する耐久力は弱くなる。仮に金利が急上昇し、引当金がなくなり、さらに政府からの出資や準備金(二・三兆円)などを超えて損失が発生した場合、旧日銀法と違い政府が損を埋める条項はない。
速水総裁は政府に不良債権処理の早期実施を呼びかけたという。だが現実には、日銀だけが金融緩和を実施、他の施策が急展開する兆しはまだない。
市場には「これだけ緩和しても長期金利が下がらないので、日銀は今後金利上昇のピッチを緩めることはできても、下げることはもうできない」(欧州系証券のトレーダー)との声もある。日銀の今回の措置が中期的に長期金利の上昇要因になるとの見方が強まっている。