【フランクフルト28日=貞広貴志】
今年1月1日からユーロの流通を始めた欧州12か国は、28日までに旧各国通貨の法的効力を失わせる措置を取り、単一通貨ユーロ導入が完了した。史上最大規模の現金転換作戦とも評されたが、作業は順調に進み消費の現場でも新通貨はすっかり定着、金融当局などの課題は旧貨幣の事後処理などに比重を移しつつある。ただ、貨幣単位変更のどさくさに乗じた値上げやサギまがいの商法など、一部には問題点も残っている。
◆やはり便乗値上げ、レストランなどの60%◆
ライン川観光の拠点ドイツ中部リューデスハイムの土産屋で、店員が盛んに客を呼び込んでいた。「店内全品、表示額の半分でOKだよ」
ワインから絵はがきまですべて半値というが、張り付けられた数字だけの価格札がどうも古い。問いただすと、昨年末までのマルク表示のままであることを渋々認めた。
ユーロとマルクの交換比率はほぼ一対二なので、これでは定価販売に過ぎない。店員は「割引とは一言も言っていない」と弁明したが、通貨転換に乗じたサギすれすれの商法と言える。
各国の消費者団体によると、こうした“ユーロ悪用商法”は12か国のすべてで広範に見られた。中でも目についたのが便乗値上げで、独消費者連盟の調べだとレストランなどサービス業の60%までがユーロ現金導入をはさんで値上げを実施した。
大手小売店の中には逆に「ユーロ値下げ」を大々的に宣伝したところもあったが、「半年以上前に周到に値上げしておいた分を、ただ元に戻すようなケースも多かった」(同連盟のジルケ・メーリングさん)という。
欧州委員会が28日発表したユーロ圏の1月の物価上昇率は2・7%と予想を上回る高い水準となり、当局者の間でも「レストランや喫茶店、健康関連サービスなどで異常な価格上昇が認められ、通貨転換に伴うインフレの可能性がある」(統計局)という警戒感が浮上してきた。物理的な転換作業で成功をおさめたユーロ導入は、消費者に負担と不満ももたらしたようだ。
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◆リサイクル着々、マルクはメタノール・ガスに◆
トラックに満載されたゴミ袋から取り出された紙切れは、風にあおられて紙吹雪となり、収納倉庫のまわりに無造作に舞い散った。これらの紙切れが少し前まで貴重なマルク紙幣だったことをうかがわせるのは、緑や青など特徴のある色だけだ。ドイツ東部シュプレータールの廃棄物リサイクル会社SVZでは、シュレッダーにかけられた紙幣を燃料などに利用できるメタノール・ガスへと生まれ変わらせる作業がピークを迎えていた。
「1トントラック1台に積まれた分量が、ざっと1億マルク(60億円弱)に当たる。1枚当たり800もの紙片に裁断されているので、拾い集めてつなごうとしてもムダですよ」。SVZ社広報担当のルッツ・ピカートさんが言う。同社は、首都ベルリンとブランデンブルク州で回収されたマルク札を、全量リサイクル処理する委託を受けた。
「世界でも最新鋭の技術」(ピカートさん)というガス化施設では、旧紙幣を葉巻のようなペレット(団塊状原料)に加工した後、他の家庭ゴミなどと混ぜ、高温・高圧の容器の中でガス化する。精製された高純度のメタノールは、燃料電池の燃料や塗料、化学製品の原材料として再利用される。
欧州中央銀行(ECB)が2月20日現在でまとめたところによると、市中に出回る新旧紙幣の比率は、最も進んでいるルクセンブルクでユーロが99%を占め、逆に最も遅れているフランスでも77%に達した。ユーロ転換が事前予想より順調に進んだことで、使用済みの旧紙幣を処理する作業も本格化した。
ただ、紙幣の資源リサイクルが行われるのはむしろ例外で、大半は焼却処分しているのが実情だ。燃やせば二酸化炭素が排出され、環境への負担は重くなるものの、リサイクル施設への輸送コストや安全対策を考慮すると「結局は焼くのが最も効率良いという結論に達した」(独連邦銀行)という。
一方、硬貨については銅やニッケルなど資源として回収するのが主流だが、世界各国の硬貨製造を手がけるフィンランド鋳造会社は旧自国通貨マルカをいったん溶かして別の通貨に作り変える。「組成の関係でユーロにするのは難しい」(ライモ・マッコネン社長)ため、タイ・バーツなどに転換する計画で、北欧で使命を終えた硬貨は姿を変え、遠く離れたアジアで再び取引されることになる。
(2月28日23:19)