日本銀行が、政府の総合デフレ対策に連動する形で追加的な金融緩和に踏み切ったのは、金融システムに対する不信感を背景に、株価や景気が低迷を続ける状況を打開するためには、政府・日銀が一体となってデフレ対策に取り組む姿勢を示す必要があると判断したためだ。ただ、政府や市場の声に背中を押される形で踏み切った緩和策では、「インフレ目標」の導入など踏み込んだ措置は見送られ、市場の反発をかわすための「一時しのぎ」の感も否めない。日銀はデフレ解消に向け、大胆な政策転換が求められている。(川戸 直志)
◆背景◆
「政府の総合デフレ対策とタイミングを一致して決められたのはよかった」(速水優日銀総裁)
「日銀は3月危機の乗り切りを非常に強くバックアップしている。大歓迎だ」(塩川財務相)
「政府と金融政策の、デフレ対応型ポリシー・ミックス(政策融合)の第一歩だ」(竹中経済財政相)
経済財政諮問会議などで、鋭く対立していた3人は、今回の金融緩和について、政府・日銀の一体感を口をそろえて強調した。
政府側が日銀の対応を評価しているのは、総合デフレ対策について「デフレ退治には力不足」との声が出ている中で、景気の下支えが構造改革の前提条件となっている政府にとって、日銀の金融緩和が不可欠だったからだ。
一方、日銀としても、金融緩和を見送って株価急落などが起きれば、金融危機を招いた「主犯」とされかねず、塩川財務相などが主張していた国債買い切りの増額などを実施せざるを得ない状況だった。さらに日銀は、金融機関向けの「ロンバート型貸付制度」の拡充のほか、年度末の資金需要の増大に応じて潤沢な資金を供給する方針を示すなど、年度末の危機を懸念する「市場の目」を意識した施策を金融緩和のメニューに盛り込む気配りも見せた。
◆限界◆
ただ、物価上昇を金融政策の目標に掲げる「インフレ目標」の導入や、外債購入、社債やCP(コマーシャルペーパー)を買い入れて企業に直接資金を供給するオペの導入など、従来の金融政策の枠組みを超えた新たな取り組みは見送られた。国債買いオペについても、2000億円の増額では「景気下支え効果はほとんどない」(市場関係者)との指摘がある。今後、さらにオペを増額するにしても、日銀の国債保有残高には「日銀券発行残高」という上限が設けられているため、長期国債の買い切りは「月1兆2000億円程度までの増額が限度」(証券系シンクタンク)とされる。従来型の資金供給を柱とした金融緩和には限界が見え始めている。
◆課題◆
総合デフレ対策と今回の金融緩和で、政府と日銀は一応、政策協調を実現した形となった。しかし「政府も日銀も、やりやすい政策を小出しし合ったにすぎない」(市場関係者)との厳しい見方も根強い。
日銀の速水総裁が主張する金融機関への公的資金の早期注入に政府が難色を示す一方で、政府・与党に導入論が多いインフレ目標や上場投資信託(ETF)を対象とした日銀オペなどに、日銀は否定的で、政策をめぐる従来の「対立構造」は残ったままだ。
日銀は金融緩和の発表文書に、金融システムの強化、税制改革、公的金融の見直し、規制緩和など、政府の対応を具体的に求めた。日銀の投げたボールを政府がどう受け止め、さらに日銀が政府の要望に応じるか。デフレ阻止に向けた政府・日銀の政策のキャッチボールはまだ、続きそうだ。
(2月28日22:07)