「3月末までに株価は急落する公算大」―こんな見出しをつけた外資系証券のリポートが今週に入って兜町の話題を集めている。これ以上の株安は金融システムを揺るがしかねない、とカラ売り規制の強力な指導に乗り出した金融庁の神経を逆なでするようなタイトルだが、これとは別に「株価は株価に聞け」をモットーとするテクニカルアナリストの間からは、ついに日経平均7000円台を転機とする見方さえ浮上してきた。金融庁による必死のカラ売り規制強化で買い戻しが加速し、27日の東京株式市場は全面高に近い様相を呈したが、「本当にゾッとする怖い場面は買い戻し一巡後に到来する」というのがベテラン証券マンの声だ。
●超・弱気のドイツ証券が「断言」
3月急落説の発信元はドイツ証券。22日付のリポートが、問題の文書だ。大和証券出身のチーフ・ストラテジストが昨年来、テレビや投資雑誌に頻繁に登場し、一貫して「悲観論」を展開。日本経済の機能はメルトダウン(溶解)して相場が破局的な様相を呈し、銀行もますます窮地に追い込まれるという超・弱気論が、結果的にものの見事に当たってきただけに、「当たり屋につけ」とばかり、このところ株式市場では「ドイツ証券への付和雷同組や“信奉者”が個人投資家のなかにも増えている」(準大手証券営業マン)という。
そのリポートだが、「責任回避、痛み回避、株安回避の便法など、論理的にはありえない」とし、「そのような期待で株価が上昇したとすれば、3月末までに期待された公的資金投入が不可能となったことを受けて、株価が急落するのは必至」というものだ。
●「世紀の買い場」を提供
もっとも、その文面をみると、株主と経営者の「責任をとらせるためにも事態の著しい悪化が必要」と強調するなど、事実や分析よりも、むしろ「こうあらねばおかしい。いや、そうあって欲しい」というアジテーターによる意見書風の感じがしないでもない。
ドイツ証券は、26日にはカラ売りに絡む法令違反行為でクレディ・リヨネなど他の外資系証券3社とともに、金融庁から行政処分を食らった。ただ、これほどハッキリと、かつ大胆に「急落説」を説く証券会社が他には皆無とあって、内容の可否はともかく目立つことこのうえない。
さて、話題の人であるこのドイツ証券のストラテジスト、昨秋あたりからファンダメンタルズの凄まじい悪化を背景に、「日経平均は8000円台で世紀の大底をつける」と明言しており、そうであれば「3月急落」は世紀の買い場ということにもなる。
●「弱気充満」は転機のシグナル!
これとはまったく別に、株価のテクニカル分析(=チャート分析)を業とする市場関係者から、8000円台はおろか、7000円台を「重要な相場転機のポイント」とする声が挙がっている。
新光証券のエクィティ情報部が25日にまとめたテクニカル・リポートには、日経平均の「主要なテクニカルポイント」として、たとえば「91年3月18日の高値から92年8月18日までの下落幅(1万2837円50銭)を、1昨年4月の高値2万833円21銭から差し引いた7995円71銭」を注目すべき株価水準としてリストアップしている。
もし、日経平均が8000円台を割り込むようなことになれば、1981年8月17日以来のことになる。カラ売り規制強化による買い戻しは、しょせんは一時的、人為的な相場形成。実態名でも好材料が上乗せされない限り、いずれ買い人気失速は避けられない。そのときが正念場になる。
「野も山も、皆いちめんに弱気なら、あほうになって米を買うべし」―江戸時代に著された相場指南書「三猿金泉秘録」の有名な一節だが、どこもかしこも弱気を吐く投資家で満ち満ちているときが「海中に飛び込む思い」で買いに出る急所、というのがこの世界の鉄則。
大ピンチは見方を変えれば新規買いの投資家にとってみればビッグ・チャンスそのものである。
(楠 英司)