大蔵省や大銀行をテンテコ舞させ、世間をアッと言わせた東京都の外形標準課税、野放しになっていた不正軽油の摘発…。この総指揮をとった石原慎太郎都知事と都主税局のメンバーたちの息づまるような奮闘の舞台裏をまとめたドキュメント「東京都 主税局の戦い−タブーなき改革に挑む戦士たち」が財界研究所から出版された=写真左。小泉改革の行く手に暗雲が垂れ込み始めた時期だけに、はやくも永田町では「次をにらんだ布石か」(野党幹部)との憶測を呼び、注目を集めている。
このドキュメントは「外形標準課税」構想、脱税を繰り返す悪徳業者を捨て身の調査で摘発した「不正軽油撲滅」、「戦う石原税調」の3構成。
なかでも、目を引くのが外形標準課税の章だ。大蔵省(当時)や銀行の抵抗を跳ね返す徹底した理論武装を構築するため、連日連夜のハードスケジュールで税制部長が過労で倒れ交代(文中より)したことや、慎太郎知事の爆弾会見後、自治省(当時)へ説明に向かった都主税局税制課長がそのまま6時間“カンヅメ”にされたエピソードなど、「当時は影響が大きすぎて表には出せなかった」(都幹部)裏話が満載。
慎太郎知事とともにタブーに挑戦し続ける東京都主税局(本より抜粋)
また、徹底した情報管理をしくため、慎太郎知事は特別秘書2人と大塚主税局長の4人だけで秘密裏に計画を進めたが、発表前に副知事ら都幹部4人を食事に誘い出して謝罪。さらに、発表直後に都議らへ説明をし終える段取りをとっていたという内幕も描かれた。
条例を成立させるには、都議会にそれなりの根回しが必要である。どんないいアイデアでも関与する人間の神経を逆なですれば、出来るものも出来なくなってしまうのが人の世の常である(文中より)。
同著を読んだという国会議員の1人は「小泉首相は党の意見を何でも押し切ることがいいことと思っていたようだが、根回しゼロで改革が進まないのは都議会も国会も同じ。乱暴そうな都知事でも実は水面下で配慮していたことがよくわかった」。
また、強力なリーダーシップと明解な構想と使命感を示せば、組織がいかに活気づくかについて触れている部分も要注目だ。
「入るときは一流、係長は二流、課長は三流」「遅れず、休まず、仕事せず」の“三ず主義”が石原が知事に就任する前の都庁文化だった(文中より)という都庁職員の意識が慎太郎知事の「嵐の下命」で一変。特に圧巻なのは、新税構想が動き出し、中央官庁や銀行業会の強い反発にあったときの大塚局長が放った次の檄(げき)だ。
「お前らこれで死ね。骨は知事が拾ってくれる。俺も死ぬから」(同)
こうしたエピソードに、永田町からは「改革で目に見える得点をあげられず、かといって国民を鼓舞できていない小泉首相にも参考にしてもらいたい」(与党幹部)と小泉首相に対する厳しい指摘も。
さらに、「これほどの内幕を公開するのは小泉政権の命運をそろそろ見切ったせい。慎太郎氏は石原首相待望論が湧き起こるのを待っているのではないか」などとの声も上がっている。