政府の総合デフレ対策が株式市場関係者の関心をさらっている。ブッシュ米大統領が来日する2月17日までに対策を取りまとめて理解を得たい、という“米国の視線”を強烈に意識した動きとみられているが、その中で株式市場の需給改善組織として脚光を浴びているのが「銀行等保有株式取得機構」の存在。同機構は15日から営業を開始する。いったい、どのようなアクションを起こすのか―。
●128会員で構成
大量の保有株を抱え、その株価下落による評価減とバランスシートの痛みで悲鳴を上げているのが銀行業界。しかし、銀行がどんどん保有株を市場に放出すると、さらに株安を招く。こうした自縄自縛の悪循環に陥るのを防止し、銀行から放出される株式の受け皿機関として今年1月30日に旗揚げ(設立登記)したのが「銀行等保有株式取得機構」(以下、取得機構)だ。
当初は保有株の取得開始日、つまり営業スタートを2月19日に予定していたが、「もっと早めて欲しい」という政府の要請を受けて、15日からスタートすることになった。わずか4日間の“前倒し”だが、ブッシュ来日の17日にはなんとか間に合う。
取得機構は、銀行、農林中央金庫、信金中金など128会員によって構成されるが、会員の拠出金は108億円で、これが資本金に相当する。「保有株を売りたい」という会員(金融機関)から取得機構は相対(あいたい)で株式を取得するため、取引所経由の取り引きのような「相手構わずの大量売り」が市場に放出されることはない。
●2つに分かれる買い付け・処理方法
ただ、ひと口に保有株の受け皿機関といっても、そのスキームは単純ではない。大きく分けて、取得機構の受け皿は(1)一般勘定による買い取り・媒介(2)特別勘定による買い取り―の2つがある。
(1)の一般勘定による買い付け・媒介とは、証券会社のETF(株価指数連動型投資信託)の組成ニーズに応じて、取得機構が金融機関の保有株式を買い取るものだ。取得機構では、それを短期間で証券会社に売却し、買い取った証券会社が、それをETFなどの形で投資家に販売する、という流れだ。
一方、(2)の特別勘定による買い取りでは、国民の税金が注ぎ込まれる。というのも、このスキームでは、売り方が売却時拠出金として売却額の8%を支払い、それが買い取り金額として一部充てられるが、残りの92%は国民の税金を充当する。この場合、政府が準備している保証金額は2兆円。「血税投入で、銀行株を拾い上げるのはおかしい」として、この点は大問題になった経緯があるが、「金融危機回避」という大義名分が通り、認められた。
特別勘定で買い取った株式は、取得機構が長期間保有し続け、利が乗ったところを見計らって売却する。いわば取得機構が運用する投資信託のようなものと考えればよい。
●「結果オーライ」の可能性も
ただし、問題もある。あろうことか拠出金を払った会員間に、この取得機構を積極的に活用したいという動きがなく、ほとんどがまだ様子見の状況なのだ。取得機構に頼らず、自前でETFを組成・販売するような銀行もある。今後、取得機構が“営業活動”を強力に繰り広げないと、開店休業となりかねない。
取得機構のような組織は1965年(昭和40年)の証券不況当時にも設立されたことがある。銀行主導の「日本共同証券」、証券会社中心による「保有組合」がそれだ。一時は組織存続が危ぶまれるほどの過剰株式処理に苦しんだ両組織だが、日経平均は1965年7月の1万209円をボトムに長期上昇相場に入ったことで、組織解散時(保有組合は1969年1月。共同証券が1971年1月)の決算で計上された株式の売却益は合計1204億円に達した。当時としては、巨額である。
今回も相場的には、「嵐の中の船出」となる取得機構だが、長い目でみれば株価は大底圏に到達していることは間違いない。となれば、保有株取得に向けた取得機構への血税投入も、「結果オーライ」になる可能性はあるのだが、さて―。
○URL
・銀行等保有株式取得機構に関する命令案の概要(財務省)
http://www.mof.go.jp/comment/cm131130b.htm
[楠英司 2002/02/14 10:41]