政府のデフレ対策の一環で、金融庁が空売り規制をさらに強化した。日本証券金融など証券金融会社に貸し株料の有料化を求めるなど、従来以上に売方いじめが露骨になったようにみえる。一方的な空売り締め出しが進めば、出来高が低下する懸念も否定できず、市場関係者は“効果より副作用”を心配している。
●証券4社処分は「見せしめ」〜意外だった当局の強硬姿勢
金融庁は26日の夕方、新たな空売り規制と同時にクレディ・リヨネなど外資系3社と日興ソロモンの計4社の処分を発表した。1社には1カ月間、つまり3月期末までの営業停止処分という重罰が科された。
4社の“罪状”は発注時の空売り明示義務を怠ったこと。クレディ・リヨネの明示義務違反は11月だけで約1600件に上り、別の外資は70件ほどの違反があった。金融庁は昨年暮れ、11月の取引内容をすべて再点検し、結果を報告するよう求めていた。当局の姿勢を甘く見て「実際より少なめに申告した証券会社も複数あった」と公然とささやかれていただけに、空売り対策とともに厳罰を発表する当局の強硬姿勢を意外に受け止める向きが多かった。
●仕手筋逮捕も演出か
さらに27日午後には、大相場を作った志村化工<5721>株の株価操作の疑いで都内在住の有力仕手筋が逮捕された。内偵と事情聴取はかなり以前から始まっており、昨年秋も逮捕説が流れた経緯がある。兜町では「証券市場健全化をアピーするため、デフレ対策の発表日まで逮捕を引き延ばしたのでは」と、過剰な演出として受け止めている。
●当局はデメリット否定せず
空売り規制は、価格規制、報告の徹底、貸し株調達コスト引き上げ―の3本柱。金融庁のもくろみ通り、空売りがやりにくくなったとの声が兜町のあちこちで聞かれる。流動性への悪影響について、金融庁は会見で「よりマイルドな方法を選んだ」と述べ、デメリット自体は否定しなかった。
一方、ベテラン投資家ほど「損切りさえきっちり実行できれば空売りは安全」と口をそろえる。買いから入る場合はこれから上がる銘柄を見つけなければならないが、空売りはすでに上がってしまった銘柄を売るからだ。暴騰した仕手株の値崩れ時を専門に狙い打ちする「空売り愛好者」も少なくないが、空売り規制で一般投資家と違った観点で動く投資家が減れば、価格形成は“いびつ”にならざるを得ない。
●「金融庁にお聞きください」―東証に当事者能力なし
前回の空売り対策を受けて東証で2月上旬に開かれた説明会では、規制強化後の伝票処理を巡って証券会社から質問が続出した。しかし、東証さえ新ルールの運用法を理解しておらず「金融庁にお聞きください」の答えに終始し、参加した証券マンをあきれさせた。空売り対策は特定の政治家が熱心だとされ、株価低迷が続く限り、規制は厳しくなる一方との見方も出ている。
(半沢 昭悟)