史上最悪の年度末かと思われた株式市場が、金融当局による各種の売り規制でそれなりに値を保っている。ただ官主導の「下げない相場」への不満は着実にうっ積している。とくに、当局に規制面での知恵を付けたとの観測が根強い“黒子”への批判も高まり、株式市場では負のエネルギーが蓄積しつつある。
●効きすぎる空売り規制
米国のゴールドマン・サックス証券を始め、モルガン・スタンレー証券など活発に自己ディーリングを手がける大手外資系証券が相次いで空売りに関する不備をつかれ、一定期間の業務停止処分を含む行政処分を受けた。各種の検査を通じ、違法行為が摘発されるのは致し方ないが、株式市場関係者の間で両社への処分を前向きに受け止める向きは少ない。
なぜなら、海外投機筋の注文を数多くさばく外資大手を強くけん制することで、「年度末はなんとしてでも値を保ちたい、との当局の意志が透けて見える」(銀行系証券)からだ。加えて米系2社への処分は「ほとんど言いがかりとしか言えない微々たるミスを衝いた」(同)との見方が根強いため、「この期におよんでも官主導で物事が運ぶと勘違いしている認識の甘さ」(準大手証券)を株式市場は嫌気しているのだ。
●知恵を付けたのはあの大手?
問題企業同士の再編で“先送り”機運が台頭しているほか、マクロ経済が着実に悪化の一途をたどるなど、株式市場には売り材料が山積している。ただ売り規制強化とともに、株価は不思議に値を保っている。市場ではこの状態を演出したとされる“黒子”への不満も強くなってきている。株式市場でささやかれているシナリオはこうだ。
当局に空売りの危険性を説き、同時に株式売買でシェアを奪いつつある外資大手をたたく。新興のライバルが業務停止処分を受けている間、大口の注文をさばき、手数料収入を飛躍的に向上させる―。「確たる証拠はないが、大手外資を血祭りに上げ、当局をも動かす力があるのは、あの国内大手証券会社しかない」(大手生保運用幹部)と、市場周辺では名指しで今回の黒子が取りざたされている。
●目撃情報が思惑に
この証券会社に関しては、昨年末から今年初にかけて「有力OBが盛んに永田町、霞が関に出没していた」(銀行系証券)ことが確認され、こうした観測につながった経緯がある。実際にこの有力OBが橋渡し役となって、各種売り規制スキームが強化されたか否かは定かではないが、状況証拠がまことしやかな思惑に発展、官製相場への不信感、業者と行政の2人3脚への逆戻り懸念を惹起させているのは事実だ。
「今年度末こそ日本経済の膿が出切ると期待していたのだが」(同)との不満、不信感が、下げない相場の中で鬱積している。負のエネルギーは、新年度とともに爆発する可能性もある
(相場 英雄)