●経済危機管理担当補佐官には誰が?〜私案に盛り込まれた2代議士の思惑
渡辺私案には、もう1つ注目すべき点がある。それは内閣に“経済安全保障会議”を創設し、その担当に“経済危機管理担当補佐官”を置くことだ。これはまさに首相の経済・金融政策に関するブレーンという位置付けで、金融危機対応会議とは別立ての組織になる。その役割は、補佐官の仕事内容を見れば明らかだ。補佐官は、過剰債務企業の再建計画の実現可能性をチェックできるし、また金融機関の不良再建処理などへの対応もチェックする。その結果に基づいて、再建計画の妥当性を総理に進言し、総理より各省庁に指示するように進言できるとしている。
つまり、金融庁と経済関係省庁の仕事を屋上屋のように監視するというのだ。クリントン前米政権に設置されていた「経済安全保障会議」を参考にしているが、これ以上に、強大な権限を持つ事になろう。渡辺代議士が常に説いてきた、金融危機の回避と金融と産業の再生を一体的に進めるための総合戦略を練るとしている。では、この補佐官に誰がなるのか。
渡辺・塩崎両代議士は、この補佐官に自らを任命するように首相に暗に迫ったのだ。つまり、かつて「政策新人類」として野党と連携し現在の金融関連法制をまとめ上げた2人が、桧舞台に立てるかの瀬戸際なのだ。同じ政策新人類だった石原行政改革担当相は、いま脚光を浴びている、小泉総理大臣であれば、まったく無い話ではないと思っているのだ。しかし、両代議士が補佐官に任命される事があれば、「自らの名声を高めることだけに使われるのでは」と懸念する声も永田町界隈では囁かれている。
●特別検査は先送りモード〜「金融庁、なにもせず」!
しかし、これに対して、鳴り物入りで始まった金融庁の特別検査は、問題先送りの様相を見せ始めた。去年の年末に特別検査を受けた大手銀行の担当者は、検査官がフォローアップに来るこの時期を極度の緊張感の中で待っていた。どこまで厳しく査定の見直しを求められるのか、担当者は、固唾を飲んで検査官と対峙したのだ。しかし、検査官の口から発せられた言葉は、意外なものだった。特に他の金融機関と区分が食い違う債権については厳しく見直しを求められると思っていたのに「また3月にでも来ます。それまで他とすり合わせておいて下さい」とあっさり引き下がってしまった。言い換えると「何もしなかったという方が良いかも」と大手銀行の首脳は呟く。
金融庁は、公的資金の再注入につながるような不良債権処理を先送りしようとしているかに見える。そこまでして、柳沢金融担当相と金融庁の森長官、引いては金融庁の組織そのものを守る必要が果たしてあるのだろうか。それでは、護送船団行政に後戻りではないか。柳沢金融担当相が、さらに突き詰めると金融庁そのものが不良債権処理の大きな障害になろうとしている。
●総理の決断で何でも出きる?
しかし、世の流れは、大きく公的資金の再注入に大きく傾き始めている。もうすぐ、ゼネコンの再編淘汰も本格的に始まであろう。では、公的資金を再注入する大義名分は、何か。そのために、以前のような「貸し渋り対策」などという偽りのセリフは、もう通用しない。内閣府の奥院で密かに検討されている想定の1つ・・・3月中に大型破綻が起きる・・・その結果、株式市場は、急落。為替、債券市場も下落・・・本当のトリプル安で危機的な様相に・・・いよいよ日本人による日本売りに発展する―これが最悪のシナリオだ。
もう少し続けよう。次は企業倒産の連鎖が起きる・・・これでは大手金融グループでさえ3月期決算を越えられないと判断・・・小泉総理は金融危機対応会議の召集をようやく決断し、金融危機を宣言する・・・会議では、不良債権処理を加速させるため、問題企業への引き当てを大幅に強化するよう銀行に求める事を決める・・・というのだ。自己資本を大きく食いつぶす結果になると同時に、処理へも踏み出すよう強要する流れが出来上がる。
●「強制的な公的資金の再注入はしない」が、「強制的に不良債権処理を求める」
つまり強制的な公的資金の再注入はしないが、強制的な不良債権処理を求めるというのだ。そうすれば、一部の下位行は、資本不足に陥る。場合によっては、大手金融グループの一角にも、自己資本比率が8%を割り込む所が出てくる事も想定されている。まさに、先の渡辺私案と同じような状況が想定されていることに気づくであろう。これらの下位行グループが、3月中に公的資金の再注入を求めて手を挙げるというのがメインシナリオだ。つまり、ブッシュ米大統領の来日で、再度、国際的な公約となった不良債権問題の抜本的な解決に道をつける事が、大義名分そのものなのだ。
しかし、これには、公的資金という名の国民の税金を、不良債権の原資として事実上供与することになるため、国民の批判はさらに、高まるであろうことが容易に想像ができる。小泉首相は、決断さえすれば何でも出来る。しかしその反面で、小泉政権は存亡の危機に瀕する事になる。小泉内閣は、発足以来、最大の窮地に立たされている。
(「金融再生最前線」〜連動する公的資金注入と商法改正<上>は、2月21日付で掲載しております)
(東山 恵)
・「金融再生最前線」〜連動する公的資金注入と商法改正<上>
http://www.paxnet.co.jp/news/datacenter/200202/21/20020221152015_72.shtml
・首相に届けられた不良債権処理のリポート
http://www.paxnet.co.jp/news/datacenter/200202/20/20020220115511_50.shtml
・「金融再生最前線」〜二律背反に焦る金融庁、不良債権処理とデフレ危機
http://www.paxnet.co.jp/news/datacenter/200202/14/20020214103001_37.shtml
・「金融再生最前線」〜ゼネコン再編で復活した大護送船団行政
http://www.paxnet.co.jp/news/datacenter/200201/31/20020131100503_72.shtml
・「金融再生最前線」〜どうする生保とゼネコン“明治+安田の次”
http://www.paxnet.co.jp/news/datacenter/200201/24/20020124175013_02.shtml
・「金融再生最前線」〜それは総理の“ダイエーは潰すな”で始まった
http://www.paxnet.co.jp/news/datacenter/200201/17/20020117101513_29.shtml