(1)金融庁の「銀行は安全」表明の裏
さる2月6日に財務省が行なった3か月ものの政府短期証券(国債)の入札に異変が現われた。募集したのは約3兆8000億円分だったのに対し、買いたいと応募してきた金額の報告を受けた財務省幹部は「桁が間違っているんじゃないか」と目を疑った。
応募額はなんと約758兆円。日本の個人金融資産の半分以上が集まっていた。
翌2月7日に行なわれた5年もの国債の入札では逆の光景が見られた。募集したのは約1兆8000億円分だったが、応募額は2兆1000億円あまりで、危うく売れ残るところだった。もし売れ残れば、国債相場は暴落し、長期国債の相場に反比例する長期金利はハネ上がる。2つの入札が意味しているのは、日本政府に金を貸す場合、“3か月の短期ならいいが、5年間はとても危なくて貸せない”と市場が判断しているということなのだ。
国債は今年に入ってジリジリと下がり続けているが、銀行にとってその影響は株価変動よりはるかに深刻であり、それこそ経営を直撃される。
財務省は小泉首相に銀行への税金投入を強く進言した。すでに触れたように、日米首脳会談をはさんで政府の金融対策が迷走を始めたのは、この国債暴落の危険が高まったことがきっかけだった。
(2)銀行の「経営責任不問」を保証
税金投入となると、柳沢金融相の政治責任、金融庁の行政責任に加えて、銀行首脳部の経営責任も厳しく問われるのは当然だ。
そのため、政府内で税金投入論が強まると、金融庁と銀行側はいち早くどうやって責任を回避するかの対策会議を開いていた。
開幕したばかりのソルトレーク五輪に国民の関心が集まっていた2月11日の建国記念日に、金融庁中枢幹部が4大メガバンクのうち2行の経営トップを呼び出した。
会談の内容をそのうち1行の幹部が語った。
「金融庁からは、『税金投入となれば、今度は経営責任を問わざるを得ないし、これまでの検査は何だったのかという批判が起きると金融不安に歯止めがかからなくなる。懸案となっている大口の不良貸し出し先を思い切って処理して自主的な危機回避が可能だというところを見せなければならない』と切り出された。具体的には、ゼネコンや流通など、不良債権の中でも特に問題とされる業種について、同じ金融グループ内部で思い切った再編を進めることで処理をアピールしろという話になった」
つまり、金融危機がいよいよ迫る中で、それでも税金投入=責任追及を避けるためにとりあえず融資先企業の再編を急がせ、銀行が自力で不良債権処理ができるように見せかけろという指示だった。
その日に呼び出されたのは2行だったが、別のメガバンクも金融庁との水面下の交渉を進めていた。
とりわけ、2月14日の小泉首相と柳沢金融相の会談で税金投入が避けられそうにないとわかると、金融庁と銀行の責任をどう逃れるかが協議の主要テーマとなっていった。
互いに責任を減らすために口裏を合わせていく。税金投入の口実に使われる金融庁の特別検査そのものが完全な八百長ということではないか。
だが、そうして税金投入を先送りしたことで、かえって≪3月危機≫を深める結果をもたらしている。
銀行の毎日の資金繰りをチェックしている日銀幹部が緊迫した内情を明かす。
「すでに、一部の金融機関は必要な資金が調達できない事態が起きつつある。銀行が大手企業の給与支払いや大型取引の決済などで一時的に多額の資金を必要とする場合、銀行間で資金を貸し借りするコール市場で調達する。現在は金融緩和政策でほとんどの銀行は資金が余っているのに、経営不安が噂される一部の銀行に対して、他の銀行が資金を貸したがらない状態が続いている。3月末には企業も決算のために大きく資金を動かすから、本来ならどの銀行も資金に余裕がほしいのだが、一部の銀行では、この年度末を越すための資金が取れず、支払いができない事態が起こる恐れがある」
銀行が銀行に貸し渋りをするという末期症状が現われているのである。このままでは、金融庁や銀行経営者がいかに責任を逃れようとしても、3月末に突如、大手銀行が資金ショートを起こして営業停止に追い込まれる最悪の事態にもなりかねない。