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「悪い大蔵省がまた出てきた」。昨年十二月、元自民党幹事長野中広務は、
景気回復よりも財政再建路線を優先させる財務省を批判した。首相小泉純一
郎と自民党が「綱引き」を演じた末、結論先送りとなった政府系金融機関の
廃止・民営化問題でも「OBの天下り先に配慮した財務省が（廃止・民営化に
こだわる）首相を動かした」とささやかれた。一九九〇年代後半の相次ぐ不
祥事を経て、機構改革による弱体化を強いられた財務省。「官僚の中の官僚」
とうたわれた彼らは今、小泉の「政治主導」の背後で巧妙に立ち回り、着々と
復権への道を歩み始めているかのようだ。
「財務省を使っているつもりで引きずられている」−。小泉の掛け声で政
府税調、経済財政諮問会議が年明けから取り組み始めた税制改革。二月には
自民党税調も作業をスタートさせ、異例の「三頭立て馬車」になるが、党税調
の中堅議員の一人は財務省ペースに乗せられることを懸念する。
ミイラ取り
税は各種控除をはじめとする複雑な仕組みゆえに、自民党内でも「プロ」を自
認する一部長老議員に牛耳られているが、実務に精通する官僚と互角に渡り合う
のは難しい。議員側になまじ知識があっても「ミイラ取りがミイラになる」落とし穴もある。
経済財政諮問会議のある出席者に「驚いたよ。首相も財務相も名目成長率と実
質成長率の違いが分からないんだから」と酷評される首相らが、官僚の手の
ひらの上で踊らされる危険性も多分にある。
その意味で現状と二重写しになるのが、九四年に首相細川護煕が唐突に打ち
出した国民福祉税の一件。仕掛けたのは、当時、大物次官の評判が高かった斎藤
次郎だ。斎藤は政権を奪われた自民党に目もくれなかったばかりか、細川内閣の
高支持率をバックに、国民福祉税名目で消費税率の大幅引き上げを目指した。
しかし、あまりに強引な手法に、連立与党内からも猛反発が出て、即座に撤回に
追い込まれた。財務省中堅幹部は「あれが財務省への警戒につながっているの
だろう」とみる。
細川を上回る支持率の小泉。そして「現在の霞が関ではだれもが認める大物
次官」（官庁筋）の武藤敏郎。武藤の古巣主計局が「隠れ借金」とされる手法を
動員してまで小泉の唱える「国債発行三十兆円枠」を死守すれば、小泉は「引き
締まった予算ができた」と相好を崩す。小泉がもともと大蔵族議員ということもあっ
て、両者の蜜月（みつげつ）ぶりは警戒心を一層かき立てる。
弱い物いじめ
九六年の与党大蔵改革プロジェクトチームに参加し、その後、橋本内閣で官房
副長官を務めた元通産相与謝野馨は「内閣が国の大きな進路を決めるときに
も、国の財布と相談しなければならない」と指摘し「財布を預かる財務官僚が、
その責任を果たすことまで『復権』と批判しては官僚がかわいそうだ」と強調する。
基本方針を決めるのはあくまで政府・与党の政治家の役割であり、財務省への
批判は政治主導を果たそうとしない政治家の「弱い者いじめ」だというのだ。
金融監督庁分離の経過を分析した著書がある京都大学教授真渕勝（行政学）も、
一連の改革の結果、以前の権限は押さえ込まれているとの立場を取る。
有能さに恐れ
こうした見方の通りなら、くすぶる「大蔵復権論」の実相は、小泉改革の独走に
無力感を募らせる政治家たちが、財務省に小泉の「影」を見ておびえているという
ことかもしれない。
「政権党の指南役」とされる財務官僚の有能さが、恐れに拍車を掛ける。
二〇〇二年度予算編成直後、ある主計局幹部は、「血尿が出るような思いで、
とにかく首相、財務相の要求にこたえた」と胸を張った。
同じ人物が「いつまでも小泉首相というわけでもないだろう」とも言い切る。不敵なまでの
自負心としたたかさ。政治主導の在り方を見定められない政治家にとっては脅威に
ることは間違いない。
題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。