経営再建中のダイエー<8263>は、子会社のプロ野球球団、福岡ダイエーホークスの代表取締役オーナーで、ダイエー創業者、中内功氏の二男、中内正氏が保有するホークス株(発行済み株式の40%)の供出とホークスオーナーの辞任を要請した。ダイエーとUFJ<8307>、富士、三井住友<8318>の主力3行は、ホークスの株式の供出とオーナー辞任を迫り、中内家の経営責任を追求している形をつくりたい考えだが、実は中内功氏と中内家の経営責任については主力3行間である密約が交わされていたという。それは一体、何なのか―。
●ホークス株の提供とオーナー辞任を要求した高木社長
ダイエーの高木邦夫社長は2月20日、中内正氏を東京・浜松町の本部に呼んで会談した。高木社長は「金融機関などへの手前もあり、創業家のグループに対する関与はけじめが必要」としてホークス株の提供とオーナー辞任を求めた。
ダイエーの拡大路線の象徴である福岡ドーム、ホークス、ホテルから創業家色を排除。4000億円以上の金融支援を受け、再建にあたるダイエーのなかでの創業家の経営責任問題を勢いづかせたい考え。またダイエーは福岡ドームとホテルの売却を決めているが、売却にあたってホークスに創業家が残り、資本を保有されていたのでは、ダイエーと主力行が進める売却などの障害になるという判断がある。
●「出来レースにすぎない」?〜一応の体裁とアク抜きか
しかし、中内正氏はオーナーの辞任と株式の供出を拒否。正氏は「ダイエーの経営に携わっていないから経営責任はないし、けじめとはなにか」と反論しているが、関係者は今回の創業家の責任を問う辞任、株供出劇は「出来レースにすぎない」と口を揃える。
実は「ダイエーと正氏の交渉が当面の間は、難航している状態を強調することが大事。最終的に正氏は株の供出と辞任を受け入れるとみられるが、難航の末に責任をとった状態をつくり、創業家の経営責任問題の一定のアク抜けをしたいつもりなのではないか」という。
主力行もダイエーもこれ以上、中内功氏と創業家の責任を追求できないことが最も大きな理由として存在している、という。「主力行の間では今回のダイエーの金融支援をめぐって、ある密約が交わされているため」と関係者はいう。
●主力3行に働く見えざる「力学」
ダイエーの金融支援は金融庁主導で進められたのはいうまでもない。しかし、当初、金融支援でダイエー再建を後押ししたいUFJに対し、債権放棄が伴うスキームに三井住友は難色を示していた。歩み寄ったのは当然、金融庁の仲介があったからだが「その際にある条件が三井住友から提案された」という。
その条件とは「金融支援のスキーム作成にあたり、中内功氏の経営責任は私財提供などという深入りしたものにしないなど、これが呑めなければ協力はできない」という内容だった。三井住友銀行と中内功氏の関係は神戸銀行まで遡る。特にかつてのダイエーと住友信託銀行<8403>とは取引の深さや人脈のつながりは相当もなものだ。
2000年暮れ、ダイエーがインサイダー疑惑に揺れ、鳥羽董元社長らの退任、中内功の経営陣からの退任を主力行が決めたときも住友銀行は中内功氏の擁護に回ったとされる。つまり、主力3行はこの力学が働いて、中内功氏と創業家の経営責任はこれ以上は問えないのだ、という。
●「中内氏をA級戦犯にはしない」がためにホークス株はある?
中内功氏はすでに退職金を返上、グループ企業の全役職から退き、一定の経営責任は取っている。私財提供などというA級戦犯扱いは三井住友がなんとしても許さないわけだ。そのため、正が抵抗している局面を作り上げて「主力3行はなんとかしてホークス株の供出とオーナーの辞任に追い込んだという形をつくり出したい」(関係者)のでは・・・が衆目の一致する見方である。
ダイエーはドーム球場とシーホークホテル&リゾートについて証券化して売却する方針を転換、地元金融機関や経済界に対し出資を含む支援を要請した。1兆7500億円に及ぶ連結有利子負債を圧縮するため、球場とホテルの運営・管理会社を連結対象から外し、連結ベースでの負債軽減を図る考えとみられるが、この実現に向けたダイエー、主力行と創業家の最後のドタバタ劇の幕が開いた。
(山科 静)