●ブッシュ来日でドタバタ劇〜ゼネコン3社統合、ダイエー支援額の上積みも
先週14日の木曜日、三井建設<1821>と住友建設<1823>の経営統合にフジタ<1806>が合流する正式な発表があった。すでに1月31日付けの“「金融再生最前線」〜ゼネコン再編で復活した大護送船団行政”で報じた通りであったが、今回の決定には時期尚早という感が否めない。しかし、今月11日、柳沢金融担当大臣が三井住友銀行<8318>の西川頭取を呼び込んで強く要請したと言われるこの再編劇は、西川頭取の豪腕ゆえ数日間という極めて短時間で実現した代物だ。また、同じ日に呼ばれた富士銀行の山本頭取は、ダイエー<8263>の再建策について、さらに積極的な取り組みを暗に求められた。この当局の意向に沿って、いまダイエーへの支援額の上積みが検討されている。同じく第一勧業銀行の杉田頭取も、みずほ建設構想の実現についてネジを巻かれた。呼ばれた3人は金融庁の過剰とも言える指導を受け、それに応じようとしている。
さらに金融庁は、ゼネコンの再編劇に時を合わせるように「特別検査の結果、大手銀行が引き当てを強化するため今期の不良債権処理額が1兆円程度増えて7兆円を超える」という試算を一部のマスコミにリークしている。この急転直下の動きは何のためか。それは金融庁が、ブッシュ米大統領の来日を前に不良債権処理が前進している事をアメリカ側に何とか印象づけようと必死だったにすぎないわけだ。
●政府の統一見解がやっとまとまった?
その結果、強いプレッシャーは受けずに済んだ。しかし、アメリカにはもう一つ懸念があった。経済関係閣僚の見解の相違だった。誰を信じれば良いのか。官邸と竹中経済財政担当相が主導する積極的な公的資金の再注入派と、一貫して消極的な姿勢を崩さない柳沢金融担当相と金融庁の対立の構図がクッキリと浮かび上がってきていた。この積極派に経済産業省が乗り、財務省の一部まで加勢する姿勢を示したのである。溝は深まるばかりだった。このため、福田官房長官が調整に乗り出す。経済関係閣僚に連絡を取り、公的資金の再注入に対する政府の統一見解をまとめたのだ。これも功を奏していると言われる。この公式見解とは「現在は必要ないが危機的な状況があれば、ひるまず公的資金を再注入する」というものだった。
●2つの公的資金再注入私案
政府が、ドタバタする中で、自民党内でも動きが活発化する。すでに一部の週刊誌が報じている「渡辺私案」なるものだ。7日に、自民党の国家戦略本部の保岡興治事務局長と渡辺喜美、塩崎恭久両代議士が持ち込んだ極秘ペーパーだった。この中には大手銀行の実際の自己資本比率という表があり、平均で見れば現在公表されている約11%の20分の1以下の0.53%しかなく、4つの大手金融グループと銀行は、自己資本比率がマイナスつまり債務超過に陥っているという内容だった。計算の方法は、詳説しないが、この表を元にした説明に小泉総理大臣が、強く関心を示したという。またこのペーパーの中には、ご丁寧に“松竹梅”の3ランクで処理案まで提示されている。
●キーワードは“普通株”
もう1つが、自民党のデフレ対策特命委員会の中で、大原一三代議士が示したという「大原私案」だ。このペーパーには、現在の日本は金融危機を招きかねない状況で、資本不足などに陥った銀行に対して公的資金を強制的に注入する。投入する公的資金は用意されている15兆円の枠を超えても積極的に対応すべきだとしている。外資系のヘッジファンドやハゲタカファンドとも関係の深い大原代議士だけに、その背後の眼を気にしないわけにはいかない。しかし、デフレ対策特命委員会では、この私案の流れに沿った議論がなされている。与党内の議論に、1つの大きな流れを示したと言える。しかし、ここですでに他のマスコミで伝えられている2つの私案概要をあえて紹介したのは、大きな理由がある。実はこの中に注目すべき内容が盛り込まれているからなのだ。そのキーワードはズバリ「普通株」だ。
●商法改正が公的資金再注入論を後押しする・・・「無議決権株式」の登場
渡辺私案では、公的資金を投入するのに合わせて普通株を国が取得するというスキームだ。大原私案もそう。しかし、大原私案ではある意味奇妙な提案がある。それが「議決権の凍結」である。
これは実質国有化される銀行に対して、国が過度に関わる事を防ぐ狙いなどがある。しかし、優先株以外、議決権を凍結できるのか。実はこの議決権のつかない普通株が、この4月の商法改正で登場しようとしている―「無議決権株式」がそれだ。商法の改正案では、この新たな株式を発行済み株式の2分の1まで発行できるとしている。さらに霞ヶ関や金融界の一部では、減資もセットで行うという案が浮上している。この減資によって生まれる利益を不良債権処理に充てようというのだ。
●国民を愚弄?〜モラルハザードの極み
しかし、こうしてしまうと一般株主の負担が大きい。このため、国が先に投入した優先株についてだけ減資するという案まで出ている。もはやモラルハザードの極みで、借りた金を銀行という金貸し自身が踏み倒すことになるのだ。それも国の“お墨付き”を得て。複雑な仕組みを持っているが故に分かりずらいが、早い話が国民をバカにするのと同様のことが今、動き始めている。
公的資金を再注入する事になれば、先の公的資金注入の責任者であった柳沢金融担当大臣の責任追及も免れないであろう。「無議決権株式」の取得によって公的資金を投入する場合も、議決権を復活できるという条件をつけると見られ、国有化という恐怖に常に苛まれながら銀行のトップは経営を行う事になる。2つの私案は、はたして商法改正を見越しているのか。いずれにせよ商法の改正が、公的資金の再注入論議に勢いをつけようとしていることは間違いがない。
(以下<下>に続く)
(東山 恵)