3月期末を控えた一般債市場では、電力債や政地債などの高格付け銘柄に売りが観測されるなか、対国債スプレッドがわずかながらも拡大する動きとなっている。投資家のリスク回避姿勢を背景に、低格付け銘柄のスプレッド拡大の動きが鮮明になる一方、運用難を背景に高格付け銘柄のスプレッドは相対的にタイトに推移、マーケットにおける二極化が進んでいた。しかし、ここに来て、期末やペイオフ解禁を控えた流動性確保のニーズから、益出しが出来る数少ないセクターとされる電力債や政地債に、換金売りや利食い売り意欲が強まっている、という。ただ、市場では、高格付け銘柄への売り意欲の強さは、季節要因を大きな理由とすることから、売り一巡後は再び二極化の動きが継続するとの見方が多い。
一般債市場では、投資家がクレジットリスクの回避姿勢を強めるなか、低格付け銘柄を中心に対国債スプレッドの拡大傾向が続き、高格付け銘柄との間で二極化が進んでいた。しかし、1週間ほど前から、電力債や政地債といった高格付け銘柄に売りが観測されるなか、同セクターでスプレッドが小幅ながら拡大。市場筋によると、これまで、T(国債)+7〜8bpで推移していた電力セクターの対国債スプレッドが、10bp付近と2桁に乗せる動きとなっている。
市場では、「通常、電力債のスプレッドが目立って動くことはないことから、1bp程度の動きでも目立つ。絶対値こそ低いが、これまで拡大してこなかった分、ここに来て拡大傾向にあると言っていいだろう」(国内証券)とする声が聞かれている。
市場では、こうした高格付け銘柄でのスプレッド拡大の理由として、季節要因やペイオフ解禁を控えているという特殊要因をあげる声が多い。
東京三菱証券・投資戦略部チーフクレジットアナリストの三島拓哉氏は、「例年この時期は、3月期末を控えて換金売りや利食い売りが出やすいのだが、ペイオフ解禁を控え、今年は特に手元流動性を高めておきたいという投資家が多いようだ。そうした投資家心理に加え、電力債や政地債などは、上期末と比べると益が出せる数少ない銘柄であることもあり、クレジット面とは関係なく売り圧力が強まっているといえる」と述べている。
また、ある外資系証券の関係者は、「クレジットリスクを回避したいという思惑に加え、今年は、RTGS(即時グロス決済)やY2K問題を抱えていたころ同様、ペイオフ解禁という不確定要素を控え、流動性確保のため換金売りニーズが高い。しかし、既に低格付け銘柄などは、売りたくてもビッドが引いてしまい、買い手不在となっており換金できない。このため、売りが流動性のある銘柄や高格付け銘柄に集まってきているといえるだろう」と指摘する。
さらに、「電力債などは、今後も起債が見込まれる銘柄も多く、需給的にも売りが出やすい状態だと言える。クレジットに問題がある訳ではないが、これまで割高気味に推移してきたことも、売りが出やすい理由になるだろう」(外資系証券ストラテジスト)との声もある。
市場では、「高格付け銘柄まで売りが出始めているということは、金融機関への公的資金注入に関する不透明感が高いなか、格付けに関係なくリスクウエートを落とそうという投資家の姿勢が強く表れている」(別の国内証券)とする声もあるが、足元での動きはあくまでも季節要因や特殊要因が大きい、とする声が多い。
このため、「換金、利食い売りの動きが一巡すれば、高格付け銘柄には再び買いも出てくるのではないかとみている。季節要因がはげ落ちた後のクレジットマーケットでは、再び、高格付け銘柄と低格付け銘柄との二極化、また同じ格付けであっても銘柄間格差が出てくるといった、選別が進んでいくこととなりそうだ」(東京三菱証券の三島氏)との見方が示されている。
また、UFJキャピタルマーケッツ証券・シニアクレジットアナリストの目瀬直之氏は、足元では、期末に向けた益出しや手元流動性確保の動きが観測され、社債市場全般で売り物が目立つとしながらも、「電力・ガス・JR・医薬品・食品といったディフェンシブ業種については、高格付け指向が強い状況下、相対的に堅調なスプレッド推移が期待できる」と述べ、信用力評価の二極化が継続すると予想している。