内外の市場で金への関心が高まった要因の一つとして国際供給構造が大きく変わった点も見逃せない。世界の金鉱山の産出量自体はあまり変わっていないが、国際市場で変動幅が大きい鉱山のヘッジ(保険つなぎ)売りが急減している。それを投機資金が供給抑制材料と見て買いに動き、金の先高観を強めている。
南アフリカ共和国や豪州などの有力金鉱山は、掘り出すまでに市況が軟化し、確保できたはずの利益を減らすのを防ぐため、先物をヘッジ売りして将来の売値を確定している。逆に先高と見れば、ヘッジ売りを抑え、早めに買い戻す。
調査機関のゴールド・フィールズ・ミネラル・サービシズ(GFMS、ロンドン)の推計では、1999年は鉱山のヘッジ売りが買いを506トン上回った。同年の国際供給量の12%に相当し、90年以降で最高。英イングランド銀行(英中央銀行)の保有金売却を機に通貨の側面が薄れ、銅などと同じ一商品に変質するとの見方が強まった。
だが、国際価格はこの年に約20年続いた長期低落から、じり高に転じる。欧米の主要中銀が保有金の売却量に上限を付けたほか、2000年に米景気の過熱感が強まり、インフレ懸念から金への資金流入が増えるとの見方が広まったためだ。米同時テロも金を見直す動機になった。
鉱山各社も先高とみて売り姿勢を転換、ヘッジ売りを抑え始めた。2000年は買いが売りを10トン上回り、2001年はさらにこの買い越しが101トンに増えた。3年で売り越しから買い越しへと実質617トン供給が減った勘定になる。
この間、実際の金の産出量は年間2570-2590トンとほぼ横ばい。欧米主要銀行の保有金売却量も470トン前後で推移しており、金鉱山のヘッジ売りが供給量の最大の変動要因となっている。今年に入り米大手のニューモント鉱山が豪ノルマンディの買収交渉を始め、売り建玉の買い戻しが増えるとの観測が強まった。
需要は日本の投資向けが盛り上がり「世界の宝飾需要も堅調」(住友金属鉱山)だが、電子材料向けの低迷が続いている。2001年の総需要は約3800トンと99年より約350トン減ったが、ヘッジの変動幅を大幅に下回る。
それだけ国際需給に及ぼすヘッジの比重が大きいわけだが、そのヘッジは鉱山会社の相場観に左右される。相場観を形成するのが、国際経済の見通しや日本の金買いなどの材料で形成される市場心理、という構造。日本の金融システムへの先行き不安などが鉱山会社の相場観を強気に傾け、ヘッジを抑制する情勢が続くとみられる。ただ、いつまで持続するかは流動的な要素が多いのも事実だ。