前代未聞の“カラ売り退治”が株式市場では進行中だ。日本証券業協会の理事会が20日昼に開催されたが、金融庁の森長官なども同席し、カラ売り規制問題が再度取り上げられた。昨年来、有力外資系証券が取引所へのカラ売り明示義務を怠るなど、数々の重大な法令違反行為が発覚。このままでは金融システムを揺るがしかねない、というわけで、19日、カラ売りの監視・規制強化措置が相次いで発表された。しかし、市場関係者の間からは「マーケットの流動性とダイナミズムを考えないお役所的行動」との声が挙がっている。
●目に余る外資系証券の法令違反行為
ことの発端は外資系証券の法令違反行為。機関投資家が行う貸し株制度を活用したカラ売りは、市場への影響が大きいため、その都度、取引所に報告する義務が課せられていた。しかし、ゴールドマン・サックス証券東京支店やモルガン・スタンレー東京支店はこれを無視し、カラ売りを浴びせながら株価を引き下げ、その後に買い戻すという“連続技”を頻繁、巧妙に展開。ゴールドマンの場合、この手を使って丸紅<8002>など低位株に対し昨年後半、「メチャクチャともいえるカラ売り攻勢」(大手証券トレーダー)を仕掛けた。
昨秋以降、低位株の間から30年ぶり、40年ぶりという安値記録の更新銘柄が続出したが、法令違反のカラ売りを絡ませた外資系証券の意図的な誘導と演出なしにはありえなかった、といわれている。
結局、昨年12月にゴールドマン・サックス証券東京支店が10日間の一部業務停止、今年2月1日にはモルガン・スタンレー東京支店に2月4日〜3月8日の自己売買業務停止という、きつい“お灸”(=行政処分)がすえられた。
しかし、金融庁や証券監視等委員会は調査を進める過程で、他の外資系証券でも「限りなく黒に近い」疑惑行為を多く突き止めた模様だ。「このままだと市場が博徒場になってしまう」と塩川財務相が声を荒げたのは2月8日のこと。
●東証など「監視強化措置」発表
金融庁の要請(実際は指導)を受けて、東証と日本証券業協会は19日、「日々公表銘柄に対するガイドライン」、ならびに「信用取引に係る委託保証金率の引き上げ措置等に関するガイドライン」をそれぞれ見直した。しかし、その内容をみると、まさに信用取引を四方八方から監視する、まぎれもない規制強化措置だ。
投資家の注意を喚起するために設けられている「日々公表銘柄」に対する公表ルールでは、残高基準、株価基準、売買高基準をそろって従来より引き上げ、かつ細分化した。しかもこれらの「基準のいずれにも該当しない場合において、当取引所が信用取引の利用状況や銘柄の特性を考慮し必要と判断した場合」であっても公表できる特例基準を設けた。こうなると、取引所とその背後でにらみをきかす金融庁の“主観的な判断”ひとつで即座に監視措置を発動できる。
●「目くじら立てるな」と批判も
だが、「本当にこれでいいのか」と疑問を投げかける証券マンはきわめて多い。「本来、自由であるべきマーケットが、相場を知らない役所によって再び呼吸困難の状態にさせられてはたまらない」。こう語るのは、この道40年の中堅証券の経営者だ。
そもそもカラ売りの累増は、いったん株価がボトムアウトした際には強烈な反動高相場へのバネとして機能する。下げるときは悪役だが、上がりだすと一転して需給面での起爆剤に変身するのだ。だから「カラ売りも大いに結構。目くじらを立てる方がおかしい」というのが相場通の古来変わらぬ主張である。
東証が19日発表した信用取引動向(15日申し込み時点)は、売り残が1兆553億円に対し、買い残は9966億円。売り残優位であり、ここにはカラ売り残算もかなり含まれている。肝心の政府のデフレ対策がパッとしないため、「当局の意向にかかわりなく、相場は売り込み銘柄を中心とする激しい需給戦が続く」との見方が支配的だ。
さて、個別銘柄で信用売り残が最近大幅に増加している上位10銘柄は、日産自動車<7201>、NKK<5404>、日興コーディアル<8603>、新日鉄<5401>、大和証券グループ本社<8601>、富士通<6702>、沖電気<6703>、東芝<6502>、ジャパンエナジー<5014>、昭和電工<4004>―だ。
(楠 英司)