日本での金買いが国際価格の上昇につながり、日本で動きが止まれば海外も一服――。今日本の買いが国際金市場を先導している。金とのかかわりが25年に及ぶという田中貴金属工業の高斉均地金部長は「過去11回あった金ブームとは異質」と指摘する。
1979年の旧ソ連軍のアフガニスタン侵攻、90年の湾岸危機などをはやした買い人気はいずれも3-6カ月で終息した。米同時テロが始まりとみられる今回はすでに5カ月が経過したが、金融不安が払しょくされない限り来年春まで続くとの見方も出ている。
従来の金ブームは短期の値上がりを当て込んだものだったが、今回はペイオフ(定期預金などの払戻保証額を元本1000万円とその利息までとする措置)解禁による預金の先行きに危機感を覚えた投資家が「資産の一部を金に置き換えている面が強い」(徳力本店=東京・千代田)。「価格にこだわらず、5-10キログラムとまとめて買っていく」(三菱マテリアル)という。
過去の金投資を検証してみよう。国際価格は80年に一トロイオンス850ドルの最高値を記録して以降、多少の上げ下げはあっても長期低落が続いた。国内では80年に地金商の店頭小売価格(消費税抜き)が一グラム6495円の最高値をつけた。その後海外安に85年のプラザ合意後の円高も加わり、個人客の多くが含み損を抱えたのが実情だ。
皮肉にも今回のブームでは価格は二の次とする個人客が含み益を確保しているケースが多い。「慎重」から「価格二の次」に転じた買いの勢いが国際価格を押し上げ、円安も追い風となった構図だ。小売価格(税抜き)は19日現在で一グラム1322円と年初から106円上昇。約60円の売買価格差を引いても売却益を確保できる計算になる。
東京工業品取引所の先物も同様の展開。今回投資家の間では買い注文から取引を始めた人が多かったが、平均的な買いコストは12月決済物で一グラム1200円台の半ばとみられ、19日の終値を10-20円上回っている。2000年2月の「パラジウム事件」の際、個人は需給情勢を慎重に見極めて売り注文から入ったはずが、情勢の変化で価格が急騰し、多くが損失を出したのとは逆の展開だ。
現物、先物とも個人客の含み益が再び買い意欲を高め、世界の市場をけん引する――。先物市場の厚みを示す総建玉は東工取では年初比9割近く増えたが、ニューヨーク市場では3割増にすぎないことからも日本市場の活況ぶりがうかがえる。