金の投資人気が盛り上がっている。欧米ではエンロンの経営破たん、日本では株安やペイオフ(定期預金などの払戻保証額を元本1000万円とその利息までとする措置)解禁などが背景とされるが、ブームはいつまで続くのか――。
「日本ではそんなに売れているのか」――。世界の金鉱山で組織するワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)が14日に日米欧で同時に開いた電話会見では、欧米の投資銀行のアナリストなどからの質問が日本の金買いに集中した。
「過去2,3年にない売れ行き」と窓口での異変を証言するのは東京三菱銀行。業界の推定では、投資向け金地金の1-2月の国内販売量は35トン前後に達し、昨年1年間の世界の投資需要の3割に達する勢いだ。
金買いに走っている個人の年齢層は幅広く、地域も広がりをみせている。全国の8割の地方銀行に金を卸している三菱商事の推計では「2月の地銀の販売量は1月の5割増し」。第二地銀約30行に卸している日商岩井も「今年に入って目立って販売量が増えている」と証言する。
日本での金人気は欧米のメディアでも頻繁に報道されている。三井物産グループの商品アナリスト、アンディ・スミス氏は「日本でのブームが金価格に対する市場心理を強気に傾かせている」と話す。
株安やペイオフがクローズアップされる以前から金人気が高まる土壌はあったとの指摘もある。国際価格は2001年4月に1トロイオンス=255ドルの安値をつけた後、じり高に転じていたのがその根拠。国際的な低金利と株安、ドル安懸念といった国際経済システムの先行きに対する不安感が醸成され、これが300ドルにつながる価格の底上げ要因になったというのだ。
運用資産が約1000兆円に達する米企業年金も金が株価や債券などと異なった値動きを示すことに着目、分散投資の一環として金を買い始めている。WGCによれば米企業年金は2000年に91トンの金を買ったとみられるが、「2001年はさらに増えている」(豊島逸夫・日韓地域代表)。
欧米ではエンロン破たんに端を発する米会計システムへの不信感が新たな買い材料に加わっている。資本主義の根幹とされる会計制度の透明性が喧伝(けんでん)されてきた米国。それが揺らいだことで金融システムそのものへの不信感がマネーを金に向かわせているとされる。日本でのブームとあわせ、金は世界が期待する「ラストリゾート」としての役割を担えるのだろうか。
[2月19日/日本経済新聞朝刊]