GHQ行った「預金封鎖」再び?極秘情報
金融危機回避の強権シナリオとは
ようやくデフレ対策に重い腰を上げ、小泉政権は来日したブッシュ米大統領の強い要請もあって経済再生に着手した。そのカギを握る銀行は、ドロ沼の不良債権処理と株安に体力を奪われ、地銀や信組の破綻(はたん)が相次ぐ。金融パニックで預金を引き出す取付け騒ぎが連鎖、拡大して日本発の世界恐慌が起きる…。そんな最悪のシナリオを想定して、夕刊フジは金融当局が密かに検討する非常措置に関する極秘資料を入手した。かつてGHQが行った「預金封鎖」。永田町では「日本が再び焼け野原になる前に食い止める」というのだが。
極秘資料によると、金融危機が起きた場合の緊急対策のシナリオはずばり、戦後の日本経済再建で昭和21年2月から8月にかけて行われた金融機関の「預金封鎖」と、「新円切り替え」の通貨対策である。
「預金封鎖」は、顧客が「○○銀行が危ない」という事前情報で取付け騒ぎを起こして破綻を早めたり、早期是正措置の発動で済むのに「風説の流布」による取付け騒ぎで倒産するのを防ぐほか、他の金融機関や融資先に連鎖、拡大するのを防ぐ非常措置である。
普通預金の引き出しと定期解約を事前に停止(モラトリアム)させ、一定額以上は支払わない。「ウルトラC」ならぬ「ウルトラQ」の強権発動なのだ。
「新円切り替え」は、預金を現金化する際は新紙幣しか許されない通貨制度の改革。昭和21年当時は悪性のインフレに対するための切り替えだったが、現在はデフレ状態にある。
だが、自民党財務金融部会メンバーは「預金封鎖を機にデフレ対策として円の切り替えを行う選択肢もありうる」と漏らすのだ。
株、円、債権のトリプル安とデフレスパイラルのなか、大手銀の不良債権処理は遅々として進まず、その原資に充てる保有株の含み損で体力低下が著しい。
ペイオフの4月解禁と時を合わせるように、都市銀も含めた大手銀や地銀、信金、信用組の経営が危うくなる事態もあり得る。
破綻前でも債務超過寸前の事態ならば、経済評論家からは「1カ月程度の預金封鎖が発令される可能性がある」との指摘もある。
金融危機に備え、政府・与党は15兆円もの公的資金再注入を検討し、「預金封鎖には至らない」(与党議員)とする。だが、これも「株価の大幅下落を想定したものではないはず」(野党議員)。「中小金融機関の半分以上が消滅する可能性が消えたわけではない」(金融評論家)のだ。
金融恐慌を回避するもう1つの非常措置は、昭和21年8月から10月に相次いで出された「金融機関経理応急措置法」「金融機関再建整備法」など、一連の債権カットによる企業や金融機関の再建策という。
軍が戦後補償を約束した設備投資金や海外資産など、回収不能の資産(今でいう不良債権)を強制的にカット、棒引きするというもので、こちらも預金封鎖と並ぶ超法規的政策だ。
実際、日本経済は今年に入って加速度的に悪化。今月に入り、東証株価指数(TOPIX)と平均株価がともにバブル後最安値を連日更新。その後も株価は一進一退を続け、好転する兆しはまだ見えない。
米経済紙フォーブスは18日付の最新号で、日本経済は1930年代の大恐慌時代の米国と似ているとし、「時間切れの危機に突入した」と警告している。
米ニューヨークで今月開催された世界経済フォーラム年次総会(通称ダボス会議)でも、米国際経済研究所のフレッド・バーグステン所長が不良債権処理の遅れを厳しく指摘した。
「日本はバンクホリデー(銀行の強制的一斉休業)を宣言し、金融システムを一時止め、半分の金融機関を閉鎖せよ」などと、預金封鎖など非常手段をとるようを推奨しているのだ。
この発言に激怒したのが柳沢伯夫金融担当相。12日の衆院予算委員会で感想を聞かれ、「発言は問題にも何もならない。ずいぶん度胸のある方だ」と与党の質問なのに大爆発。「不安をズバリ突かれたせいではないか」(野党幹部)とささやかれたほどだった。
預金封鎖などの非常措置を匂(にお)わすのは海外だけではない。宮沢喜一元首相も昨年、朝日新聞のインタビューに対し、借金棒引き政策など非常手段も視野に入れていることを示唆した。
「終戦のとき、日本は軍が持っていた債務を棒引きし、新勘定と旧勘定を作った。今回も国が関与して、引きずってきた古いものを切り捨てなきゃいけないんだろうなあ。我々には千何百兆円という国民資産があるから、できると思う」
舛添要一、渡辺喜美氏ら経済通の自民党若手議員が6日急きょ開いた勉強会では、預金封鎖など「最悪のシナリオ」を回避するため、金融危機時の機動的対応として「経済安全保障会議」の創設など、小泉首相に提言する方針を決めた。
渡辺氏は「(戦後の非常手段を再び取らなくても)その前にいろいろ手だてをとる」と説明するが、出席者の1人は「金融クライシスに立法が間に合わない場合、経済安全保障会議こそが危機管理に対応する組織になる」(出席者)と話すなど、非常事態をも想定しているのは明白なのだ。
最悪のシナリオとなり、非常措置を取る場合の条件は、「日本がアルゼンチンのような破局」(渡辺氏)を迎えていること。
その前に、不良債権の早期処理と一段の金融緩和という枕詞(まくらことば)でなく、「日本が再び焦土(しょうど)」と化さないように、小泉内閣が国民と市場の信任を得るには、決定的なデフレ対策の策定が急務である。